目土はディボット跡に貼る“バンドエイド”みたいなもの
ラウンド中、ディボット跡に「目土(目砂)」をするのは誰の仕事か? ということは人それぞれの判断として、今回は「目土(目砂)」をするのは何のためか? ということについて、おさらいをしておきたい。
目土の主目的は、アイアンやウェッジショットで削りとってしまった箇所を早期に修復するためである。
日本国内では寒冷地を除き、ほとんどのゴルフコースではフェアウェーやラフに暖地型の芝生を採用。このタイプの芝は飛んでいったターフを元に戻して踏んでおいても、ターフ自体には根がついていないために再生することは難しい。
→ そこで削ってできた穴(ディボット跡)を砂で満たし、穴の周りから“茎“が伸びてくるのを促す。そうすることで、自然に穴が塞がるのである。これは擦り傷にバンドエイドを貼って保護し、まわりから徐々に自然治癒するのを待つような感じである。
→アイアンやウェッジで切ってしまった芝茎の断面が乾かないように保護するのが目的。切ったらすぐに“手当て”することで修復スピードが早くなる。それも擦り傷の処置と同じ。砂は芝生のバンドエイドである。
目土はキャディ(あるいはコース管理)の仕事か、プレーヤーがやるべきか? という点についてはゴルファーごとに様々な意見があり、ゴルフコースの考え方もそれぞれだと思うが、打った(削った)本人がその場で「砂を入れる」のがもっとも効果的で、しかも処置率100%になる処置法であることは確実だ。だとすれば、美しいコース環境を保つためには、正しい処置法を知った上で、なるべくゴルファー自身が目土を行うことがよい。個人的にはそう考える次第である。
もちろん、お客様は目土しないでくれ、というコースもあるから、プレーの際はその場のルールに従うことが必須だと思う。また、目土しない人、させないコースを非難することも避けたいところ。目土はエチケットやマナーを遵守するためでも、正義感を満たすためにやるものではないからだ。
行ないの目的を知れば自然に目土するゴルファーは増える
プレー中の「目土」については、これまでゴルフ業界では“エチケット・マナー”の範疇として括られ、あえて詳しくその行為の意味が語られることなかったのではないかと思う。長年にわたって “マナーだからやろう”という空気感があり、“知っていて当然”みたいな感じになっていただけ。目的を伝えてこなかったから、結果として「目土」は全然広まっていないのだ。もうそのような“君たち、わかってるよね?” みたいなやり方はやめたほうがいいだろうと思う。
“エチケット・マナー”ではなく、自分が削っちゃった地面に対する処置で、すぐやるほど芝の治りが早い。単純にこの目土の目的を周知すればいいだけではないかと思う。目的を知れば、目土したいと思うゴルファーは自然に増えていくはずなのである。
クラブハウスのマスター室横の棚に目土袋が積んであっても、乗用カートに砂の入ったバケツがブラブラしていても、カート道の脇に砂が入った土管があっても、なんの説明も書いてないのだから“知りようがない”。知らないからやらない。そういう人がほとんどであるはずだ。ティーイングエリア付近の補充用目土ステーションにタバコが刺さっているのをよく見かけるが、その砂が何なのか知らなければそうする人もいるだろう。米国に行けば、灰皿には砂が入っているのが普通なのだ。コロナでアウトドアスポーツであるゴルフを始めた人も多いと聞くが、そういうゴルフを始めたばかりの人に、マナーだ、エチケットだと教えてくれる先輩なんて、実際はもういない。その先輩すら、その行ない(目土)の目的を教わっていないし、今はビギナーだけでセルフプレーデビューしてしまう時代。“君たち、わかってるよね?”なんてことが通用するわけないのだ。
目土にしても、グリーン上のピッチマーク直しにしても、その目的を最初に説明し、正しい修復方法をわかりやすく掲示する。知れば、じゃあやろうかという人も確実に増えていくのだ。これはエチケット・マナーとも言えない、単なるショットの後始末の話だ。キズを処置するまでがショット。処置を特別なことにしないことが、この先の気持ちいいゴルフ環境を作っていくポイントになるのではないだろうか。
ちなみに冬場は芝の生育が止まっているので「目土」しなくても良さそうに感じるが、葉っぱは枯れても茎は生きている。削った穴を埋めていくことで春、夏には凸凹のないフェアウェーが出現する。緑のベストシーズンのために、冬こそ目土が必要だ。
写真/高梨祥明