今年も続々と各メーカーから新商品が発売されたが、人気のあったクラブはどれだろうか。ゴルフトレンドウォッチャー・コヤマカズヒロがこの1年の動向を振り返る。

早いもので、2020年も終わりが近づいてきた。今回は筆者の量販店取材や実際に聞いたゴルファーの声などを元に、今年のゴルフクラブ市場を定性的に振り返ってみたい。ショップやメディアからは売上ランキングが出ているところも多いので、そのあたりもなんとなく参照してもらえると幸いだ。

2020年の大きな傾向は、近年大きく躍進しているピンの勢いがさらに加速したことだ。昨年の“しぶこ”フィーバーの余韻は、コロナ禍で試合がない期間も残っていて、新たに投入された飛び系アイアン「G710」が大ヒットし、昨年モデルながら継続して人気があった「G410」は、夏にクリアランス値下げに入り、飛ぶように在庫が売れていった。

画像: ピン「G425 MAX」ドライバー

ピン「G425 MAX」ドライバー

9月18日に発売された「G425 MAX」ドライバーは、わずかな期間で他のクラブの年間売上を凌駕するほど、驚異的な売れ行きを見せている。これだけの勢いのあるメーカーは過去にもほとんどなかっただろう。買った人はちゃんとフィッティングを受けているのだろうかと、要らぬ心配をしてみたくなる。

ピンはフィッティングを標榜しているメーカーで、ドライバーなら3機種あるヘッドを選び、シャフトも選んで、ウェイト位置など様々な微調整を経て、自分好みのクラブに仕上げていくスタイルだ。しかし、「前作を超えないと新しいモデルをリリースしない」というポリシーが有名になったこともあり、口コミなどの指名買い、イメージ買いが増えているのではないかと推察する。こうした流行を追い続ける移り気なユーザーの心を掴み続けられるかが、ピンのこれからの課題だろう。

画像: テーラーメイド「SIM」(左)、「SIM MAX」(右)

テーラーメイド「SIM」(左)、「SIM MAX」(右)

ピンの強烈な勢いの中、大健闘だったと言えそうなのがテーラーメイドだ。タイガー・ウッズやロリー・マキロイ、ダスティン・ジョンソンなどカリスマ性のある世界のトッププロが使用している良いイメージで、「M」シリーズから新ブランド「SIM」へのスムーズな移行に成功した。シーズン当初は、松山英樹が「SIM MAX」を愛用した効果もあり、アスリートゴルファーの気持ちを掴んで、年間通して高い人気だった。

シーズンの途中では、セレクトフィットストア限定ということで、よりつかまり性能の高い「SIM MAX-D」が発売され、販路を絞ったにもかかわらずスマッシュヒットとなった。この「Dタイプ」は、いわゆるドローバイアスということで、過去は人気が低かったモデルだが、今回のモデルはやさしさを求めるゴルファーに上手くリーチできたようだ。このような自分の特性を理解して、それに合うクラブを求める比較的リテラシーの高いファンが多いのもテーラーメイドの特徴だろう。2020年に関していえば、ピンとテーラーメイドが、東西の両横綱といったところだ。

画像: キャロウェイ「マーベリック」ドライバー

キャロウェイ「マーベリック」ドライバー

年初は、「SIM」と対決すると思われていたキャロウェイの「マーベリック」だが、今年の売れ行きという点では、やや水を開けられたかもしれない。しかし、女子ツアーでの使用者が多く、契約外の選手も多数使っていて、その性能は折り紙付きだ。特に上級者向けの「マーベリック サブゼロ」を使う選手が多い。突出したヒット作がなかったものの、全カテゴリーで各モデルが評価されていて、2021年モデル次第では、再び頂点に躍り出そうな雰囲気もある。

ダンロップは、「ゼクシオ11」の初年度ということを考えると、苦戦しているように見える。売れ行きが悪いわけではないのだが、過去20年の圧倒的な「ゼクシオ」の強さを見てきた筆者としては隔世の感を覚える結果だ。今年は、ロゴを20年ぶりに変更し、若者向けのモデル「ゼクシオX」も投入して、メーカーの力の入れようを感じていただけに、もう少しユーザーからの反応があっても良かったように思う。

画像: ダンロップ「ゼクシオ11」ドライバー

ダンロップ「ゼクシオ11」ドライバー

今回の「ゼクシオ11」はウェイトプラステクノロジーというグリップエンドの重量でスウィングを安定させる機能が売りだったが、3月頃にはフェースの高い反発性能を謳う事が増えてきた。このあたりの戦略も後手に回ったのかもしれない。ちなみに、「ゼクシオ」ドライバーは現代では数少ないカップフェース採用している。カップフェースにすると反発性能がコントロールしやすい反面、設計の自由度が落ちやすい。こうした技術を継承している点など評価すべき点は多いブランドだ。

とはいえ、アイアンを中心にどのカテゴリーでも人気で、なんといってもレディース市場での圧倒的な存在感は変わらない。秋に投入した新しい「スリクソンZX」シリーズも同ブランドとしては、特にウッドが過去にないほど好調のようで、国内メーカーの巻き返しという点では、期待したいメーカーだ。

ピンとテーラーメイドの両横綱。そしてキャロウェイとダンロップの両大関による4強が強く、寡占気味というのが、2020年ゴルフクラブ市場の印象だ。逆に他のメーカーは、局地的なヒット作はあるものの、全体として苦戦しているようだ。

その中では、フィッティング前提のスタイルで販売する「ミズノプロ」や秋に投入された「JPX」などのアイアンが好調なミズノが気を吐いていて、他のメーカーにも他山の石になりそうだ。対面販売やフィッティングなどが進み、納得づくで高付加価値のクラブを買うスタイルが、2021年はさらに進むだろう。

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