昨年「ゴルフの科学者」という異名に、「全米オープンチャンピオン」という称号が加わったブライソン・デシャンボー。肉体改造による圧倒的飛距離アップ。それでいてショートゲームの繊細なタッチを失わなかったこと、48インチドライバーをテスト、などなど話題に事欠かず、まさに2020年のゴルフ界の主役ともいえるほど、注目を集めた。
そのスウィングを、石井はこう分析する。
「まず見ていただきたいのがトップからの切り返しです、トップの位置のシャフトの延長線上にボールがありませんよね。スティープといって、シャフトが立った状態。これは本来タブーと言われていて、普通はダウンスウィングでフェースが開いてしまうんです。そこを、デシャンボーのパワー、そして極太のグリップをつかって返していってインパクトを迎える。返すというか、開こうとする力と戦いながらダウンスウィングしている、というイメージですね」(石井、以下同)
さらに石井は、デシャンボーの特徴として「地面反力を回転方向に使っている」という。
「たとえば紙の上で足を回転させると紙も一緒に動きますよね。でも、地面はどれだけねじっても動かない。その代わりに、上半身は回した方向にすごい勢いで回るんですよ。それもまた地面反力なんです。デシャンボーはこの力をすごく使っている。打った後、両方のつま先がターゲット方向に向いていることからもそれはわかります。この力は誰もが使っている力ですが、彼はそれをすごく強く使っている。そのエネルギーを活かすためにはジョイント部分となる体の剛性が大事になってきますが、デシャンボーにはそれがある。パワー、体の剛性、テクニック、そして回転力、それらを計算して飛ばしています」
デシャンボーのスウィングは決して従来のセオリーに当てはまるものではなく、石井は「劇薬みたいなスウィング」だと評する。そもそもパワーがなければ成立しないし、コンディションが良くないと不発に終わる危険性もある。それでも、「飛ばす」ということを第一義に掲げ、トレーニングからスウィングまで、計算し尽くして作り上げているのがデシャンボーだ。
「おそらく、デシャンボーはまだほかにもなにか考えていると思うんですよ。それがどこまで行けるのか。今度はなにが出てくるのか。すごく楽しみです」
全米オープンでは作戦がハマり、マスターズでは不発に終わったデシャンボー。ゴルフの科学者の「次の一手」に世界が注目している。