パー5の4打目を「まるで3打目のように打つ」ビリー・ホ―シェルのメンタルマネジメント
佐藤信人(以下佐藤):昨年はヨガっぽいストレッチもやっていましたしね。あと「遼クンがトミー・フリートウッドの髪型を意識しているのか本人に聞いて来い」って日テレの若いアナウンサーが上司から言われていたのを覚えています(笑)。
石川遼(以下石川):トミーの髪型? 意識してないしてない(笑)。トミーって日本だと人気ありますけど、PGAツアーだとかっこいいキャラじゃないんですよ。アメリカの解説者が「ホームレスがナイキストアに来た」と言っていましたからね(笑)。
あと、あれはヨガじゃないんですよ。ヨガじゃないけど、毎日やっているストレッチ。日本シリーズ(JTカップ)が寒すぎて、エキストラで練習場でもやったんです。でも昨年はケガがなくて本当に良かったです。試合が空いたりして、リズムが不安定だったじゃないですか。試合が開いているなかでケガするのが一番嫌だなと思っていて、(かつて痛めていた)腰に関しても試合をやっていて怖いのはなかったですね。
佐藤:選手ならそういうラウンドだとモチベーション下がったりとかはあると思うんですが、はたから見ていても遼クンはそういうのがなくて、いつも「モチベーション高いな」って思って見ていました。
石川:そうですね、今までそこ(メンタル面)が下火になったことはないんですね。むしろそこ(メンタル面)がより楽しくなっちゃって、試合中のメンタル話もコーチとしたり、メンタルコントロールもトレーニングでやれたら面白いんじゃないと話すようになっています。そこすら技術というようにとらえていますね。
でもメンタルの切り替えって、PGAツアーの選手はほんと上手いなぁと思いますよ。ZOZOでビリー・ホ―シェルと回ったんですけど、パー5でホ―シェルが簡単にボギーを打ってしまったことがあったんです。
ティショットは完璧だったんですが、セカンドをフェアウェイから吹かしちゃって、残り50ヤードのバンカーに入れちゃったんです。そこからダフってグリーンをショートして、アプローチも寄らず、パーパットも入らずで、結果ボギーにしたんですよ。
僕がホ―シェルだったら、そのバンカーに入れた時点でブチ切れだろうなって。そのバンカーは絶対入れちゃいけないエリアで、グリーン周りはそのバンカー以外だったらどこでもいいっていう状況だったんですよ。僕も含めて同伴競技者の二人がバーディをとっているし、これはフラストレーション爆発だろう、どうなるんだろうって思ってホ―シェルを見ていたんです。
でも彼はバンカーに行くまでは確かにイライラしていましたけど、次のアプローチはちゃんと時間かけて全力でやっていました。はたから見たら普通にパー5の3打目を打っているかのような感じでしたね(実際は4打目)。パー5の3打目を打っているのかパー5の4打目を打っているのかわかっちゃう人っているじゃないですか。
佐藤:わかるわかる(笑)。
石川:ホ―シェルは“4打目の表情”とわからせない表情で打っていたんですよ(笑)。ただし、それも寄らなくて、でもそのあとのパーパットもすごく惜しくて。これだけ4、5打目を集中して「それでボギーかよ!」とパーパットを外した瞬間にパーンとやりたいところですが、まったくそんな素振りも見せませんでした。
さらに驚いたのはバーディをとった僕に「ナイスバーディ!」ってめちゃめちゃでかい声で言ってきたんですよ。キャディには「今のは俺のセカンドが悪すぎた。ごめん」って言って、次のホールに行ったんです。イライラしていたらその言葉は言えないと思うんですよね。あの気持ちの切り替えで、一日1、2打は違うと思いますし、自分だったらあんなしょうもないボギーを打ったら次のホールのティーショットまで引きずる。そしてまたボギーを打つという悪循環。ホ―シェルはその気持ちの切り替えで上手くスコアを稼いでいるなと思いました。
佐藤:3打目か4打目かを表に出しても影響ない人もいますよね。ホ―シェルのように表に出さない人もいるけどどっちがいいんだろうね?
石川:どうしても僕らプロゴルファーって、喜びを爆発させない感じになっていて、喜びは爆発させないけど、怒りは爆発させるみたいなイメージですよね。常に怒りが喜びを上回っているじゃないですか、量として。本当は3バーディ3ボギーなら、喜びも怒りも同等でいいはずなのに、バーディは1.5で怒りが6ぐらいに、なんかそうなりません? バーディとったのに喜ばないとか、パーなのに喜ばないとかありますよね。でも意外とそうじゃないよなと、喜ぶのが上手い選手は試合運びが上手いなと思います。
佐藤:なるほど。でも遼クンは最近凄いなって思いますよ。ラウンドレポーターで選手につくことは多いですが、声かけづらい人も声かけやすい人もいろいろある中で、遼クンは声かけやすくなったなぁと思っています。
石川:余裕のない感じってあまりいい方向にいかないですよね。いろんなものが見えているのに、焦点がきゅっと絞られているというのがいいと思っています。フラットだけど、喜びを爆発させられる選手っていうのは凄くいいことだなと思います。
遼クンが思う良い選手は「ドライバーはマキロイ、アイアンはタイガー、アプローチはヒデキ」
佐藤:ドライバー、アイアン、グリーン周り、パターで選ぶそれぞれ遼クンが思う良い選手は?
石川:ドライバーは(ロリー・)マキロイですね。もしくはミンウ・リー。アイアンはタイガー(・ウッズ)ですかね。
佐藤:そこは松山英樹選手とチョイスが一緒。
石川:タイガーのあのマネジメントされている感じが好きです。ただ球を曲げているんじゃなくて、行きたくないようなほうに行かないようにしている出球と曲げ幅が凄い。アプローチはヒデキ(松山英樹)ですかね。ヒデキの何がいいかっていうと、フェアウェイのタイトなライから柔らかい球を打つっていうのが、彼のチャームポイント(笑)。僕だったらパターを持ったり、ウェッジで低く出してワンクッションと思うシーンでも上げてくる。さらに上げるときのコンタクトもすごく上手いんです。
でも思えば、あれは彼が日本にいるときからやっていたんですよね。プロになった1年目でアメリカのメジャーとかに出てて、日本に帰ってきたときにはもうその練習していたんで、アプローチであの球が必要ってすでにわかっていたんですよね。でもシャローで浅めに鈍角にヘッドを入れてくるのは、ヒデキのショットの打ち方の特性としても合っていますよね。
佐藤:パターは?
石川:うーん、ラッセル・ヘンリーとか好きですね。大好き。打つ前はけっこうコマコマしているんですが、最後のフォワードプレスがけっこう雑なんですよ(笑)。あの雑な感じが好き。大人が真似したら、あのフォワードプレスで打っちゃうと思います。
(石川遼のインタビュー全文は2021年1月19日号に掲載)