「溶接しない」SIM2の衝撃
1月20日にテーラーメイドとキャロウェイが新製品を発表した。ドライバーの発売日は、両メーカーとも2月19日になるという。申し合わせたわけではないだろうが、2大メーカーが同時期に発売となると、対決色もおのずと強くなる。
筆者が注目したのは、テーラーメイドの「SIM2」だ。チタン製のフェースカップと呼ばれるヘッド前方の部分、カーボン製のクラウンとソール、ヘッド後方の「フォージド ミルドアルミニウム リング」の4つのパーツで構成されている。
4ピース構造もカーボン素材も目新しいものではないが、驚くのはこれらを溶接せずに接合していること。はめ込みと接着のみで接合する溶接レスのヘッドなのだ。この20年あまり、チタンドライバーを作る上で、溶接の工程はごく当たり前で疑いなく必要なものだった。この当たり前すぎて疑問に思われなかったところに手をつけたのは、いかにもテーラーメイドらしい。
「ゼクシオ」など一部を除くと、現代のドライバーはフェース部分をくり抜いたボディに、圧延で作ったフェース材を裏から溶接して製造している。その際に微細な性能差が出る可能性もある。その他の溶接部も同様で、それらの工程がないならそれだけ製品としての安定性が増す可能性がある。また、溶接の工程がないと、溶接バリが発生せず、それらの余分な重量を排除できるという。
昨年は、コブラの「スピードゾーン」や本間の「TR 20」、グローブライドの「ONOFF AKA RD5900」、さらにプロギアの「エッグ エクストリーム」など、ボディをフレーム化し、骨組みのような外郭にカーボン素材やウェイトを大胆に搭載する構造のドライバーが登場した。「SIM2」はこれらに比べても、さらに大胆な構造だと言えそうだ。
これらのヘッド構造の進化によって、今まで出来なかった設計が可能になるので、性能向上も期待できる。いわばチタンドライバーの構造革命が起きつつある状況で、今後はこの「SIM2」が、他のメーカーのベンチマークになるだろう。
キャロウェイ「エピック」が追求する低スピン性能
一方、キャロウェイは、2017年の大ヒット作「GBB エピック」から採用されている2本の柱を進化させ、フレームのような形状がヘッドの垂直方向だけでなく水平方向の剛性を高めるという「ジェイルブレイク AI スピードフレーム」を新たに搭載している。これまで飛距離に定評のあった「エピック」ブランドが、正当進化したという印象だ。
構造はともかく、結局どっちが飛ぶのかと気にしているゴルファーもいるだろう。キャロウェイの3機種はどれも低スピン性能が高いのが特徴で、もっとも低スピンの「EPIC MAX LS」はもちろん、他の2機種も低スピン傾向だ。わかりやすく言えば、より飛距離性能を尖らせているわけで、そのあたりの性能がハマれば、キャロウェイのほうが飛ぶという人も多いのではないだろうか。もちろん、このあたりは、打つ人のスイング傾向やヘッドスピード、クラブのスペックや風の状況など、条件によって変化するので、簡単に結論は出せないところだ。
キャロウェイ3モデルの低スピン性能は特徴的だが、昨年発売されたタイトリストの「TSi」、そしてテーラーメイドの「SIM2」、さらに近日中に発表になるであろうコブラの新製品も低スピン傾向だ。
かつても飛距離を求めて、ドライバーがどんどん低スピン化していた時期があったが、ボールが上がらなかったり、安定感を損なったりしたため、近年は多少揺り戻しがおきていた。2021年モデルは、過去のモデルに比べて打ち出し角が高く確保でき、ヘッドの寛容性も高まっていることで安定感も増したことから、再び低スピン傾向が強まってきている。2021年の大きなトレンドと言えるのは、実はこの低スピン化ではないだろうか。
結局、アマチュアは何を打っても一緒という人も少なくない。たしかに、毎年発売されるクラブの性能差よりも、アマチュアの打点のブレの影響の方がはるかに大きいだろう。しかし、一方でその性能差を上手く活かして、パフォーマンスの向上につなげているゴルファーが多いのも事実だ。現代は、クラブを上手く活用できている人とそうでない人の差は広がっている。新しいクラブの実力を前向きに試してみてもらいたいところだ。