ギアライターの高梨祥明が、ゴルフクラブ選びの基礎知識を解説する短期集中企画。その4回目はゴルフボールの話。よく「スピン系」「ディスタンス系」と言われるけれど、それってすなわちプロ向け、アマチュア向けということ!?

ヘッドスピードでボールが決まるなら、男子・女子両ツアーでなぜプロV1がダントツ人気なのか

世界のトッププレーヤーが使っているゴルフボールは、アマチュアには“難しい”。そう考えているゴルファーが少なくないと聞いて驚いている。

ゴルフクラブ、たとえばドライバーならばパワーヒッターと同じロフトやシャフトの重さなどにしてしまうと“振り切れない”、“上がらない”となってしまうことはあるだろうが、ダスティン・ジョンソンやブライソン・デシャンボーと同じゴルフボールを使っても、決してゴルフは難しくならない。むしろ、一打でもよいスコアで回ることを目的にしているプレーヤーたちがこぞって使うボールほど、ゴルフゲームにとっては“やさしい”と考えるべきだと個人的には思うのだ。

画像: 今年はプロ使用ゴルフボールがモデルチェンジする年周り。1打でもよいスコアで上がるために作られたトータル性能が高いゴルフボールは、もともと全ゴルファーが対象。積極的に試してみよう(写真/高梨祥明)

今年はプロ使用ゴルフボールがモデルチェンジする年周り。1打でもよいスコアで上がるために作られたトータル性能が高いゴルフボールは、もともと全ゴルファーが対象。積極的に試してみよう(写真/高梨祥明)

プロとアマでは、ヘッドスピードが違う。だから、違うゴルフボールを使うべき、という考え方もあるかもしれないが、これもまた、ゴルフクラブ選びの感覚でボールを見てしまっていることから生まれる「先入観」だと思う。

確かにPGAツアーの猛者と我々ではドライバーのヘッドスピードに大きな隔たりがあるが、PGAツアーの猛者だって常にヘッドスピード50m/sでボールを打っているわけではない。アイアン、ウェッジでのアプローチ、パッティング……。ゴルフゲームの大半は、スピードをコントロール(抑えて)して「狙った飛距離に止める」ショットで構成されている。男子プロだって50ヤード打つ時のヘッドスピードは“それなり”。我々と変わらないのだ。

プロに支持されるゴルフボールの性能がヘッドスピードを問わないことは、男子プロと女子プロで同じ銘柄が使用されていることでも証明されている。世界のプロツアーではタイトリストのプロV1・プロV1Xが圧倒的な使用率を誇っているが、PGAツアーでのタイトリストボールの平均使用率は60%台後半〜70%前半で推移。しかし、LPGAツアーとなると平均的に70%を超え、試合によっては80%の使用率を記録する。

もちろん、プロV1・プロV1Xにメンズ、ウイメンズの種別はない。ヘッドスピードでゴルフボールが選択されるのであれば、アマチュアに近いヘッドスピードの女子ツアーで男子ツアーと同じモデルが、これほど高い支持を集めることはあり得ないだろう。

軟らかフィーリングは、ドライバースピンを減らすのが目的

それでも、市場では多くのゴルフボールが販売されている。ヘッドスピードやプロ、アマ関係なければ、アマチュア向けの“ディスタンス系”など不要ではないか。そう思われた方も多いと思う。誤解を恐れずにいうならば、ボールをコントロールし、なるべく少ない打数で上がろうとするならば、多くのトッププロが支持するゴルフボールがあればよい、と思う。そのボールは誰が使っても、ドライバーでの飛距離、風に対する強さ、アプローチでのバックスピン性能。どれをとっても過不足ないパフォーマンスを発揮してくれるはずである。

満たしきれないものがあるとすれば、それはフィーリングである。

プロが使用しているゴルフボールは、一般的にディスタンス系と呼ばれるアマチュア向けモデルと比べれば、硬い感触である。それが初速(飛距離)、そしてバックスピンの源にもなっている。

ディスタンス系と呼ばれるゴルフボールは、プロが使用するボールよりも硬度を低く設定。そうすることでドライバーショットでのバックスピンを減らし、飛距離アップにつなげようという作戦だ。これはアマチュアゴルファーの多くがフェース下部やヒール部でヒットしがちで、相対的にバックスピンが多くなってしまっているからである。この打点のままで飛距離を伸ばそうとすれば、ボール自体のスピンを抑えていくことになる。そのためにはボールの硬さは軟らかい方がよい、ということなのだ。

プロゴルファーは、男子も女子もバックスピンが増えない箇所でボールをヒットできている。だからアマチュア向けのように過度にスピンを減らす設計(つまり軟コンプレッション)にする必要がないわけである。

ドライバースピンが多い人向けボールがディスタンス系と呼ばれ、アマチュアに向けた商品として推奨されてきたこの20年の間に、バックスピンを減らすための軟らかいボールの構造がアマチュアゴルファーには“スタンダード・フィール”として定着していった。その感触に慣れたゴルファーには、プロが支持するゴルフボールはどれも“硬い!”と感じられるだろう。

“硬い!”と感じると、飛び過ぎてしまう!止まらない!と連想するのもゴルファーの常だ。しかし、実際は硬いほうが、スピンが入って止まりやすい。ディスタンス系ボールは、スピンを減らすために“軟らかく”した。よく考えれば、印象と実際は逆なのである。

ディスタンス系という言葉が示す通り、アマチュアに人気の軟らかいゴルフボールは、ドライバーでのバックスピンを軽減し、最大飛距離を伸ばすために開発されたボールのことである。この点から言えば、確かにディスタンス系=アマチュア用のイメージは間違っていない。しかし、この逆は成り立たない。プロが使用しているボールは、アマチュア用でもあるのである。

ゴルフボールはゴルフクラブほど特徴が見えないぶん、ついつい適当に選んでしまいがちだが、実際に飛んでいくのはボールだ。プロ向け、アマ向けと区別したりせず、様々なボールを使ってみてイメージ通りに飛んでくれる相棒を見つけ出していただきたい。普段気にしているフィーリングは、“慣れ”の要素が強い。数ラウンド使えば、プロ使用ボールの硬さが逆に心地よく感じてきたりするものである。

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