私が初めてデシャンボーに会ったのは、2016年10月の「ブリヂストンオープン」でのこと。日本のスナック菓子をプレゼントすると22歳のデシャンボーが子供のように喜んでくれたことを思い出します。
それから5年、肉体改造とスウィング改造に成功し、飛距離を武器に全米オープンを制し、世界のトップ選手に大きく成長しました。この優勝で世界ランクは6位に上がり1位も夢ではないところにまで来ています。
圧倒的なパワーとスピードで飛ばすデシャンボーですが、注目したいのはテークバックのスピードです。「アーノルド・パーマー招待」の6番パー5で見せた池越えのティショットの動画を見てみると、まるでドラコン選手のように、始動から切り返しまでを高スピードで行っています。
実際に、デシャンボーはドラコン選手とトレーニングをともにし、そのエッセンスを取り入れているといいます。そこで、自身もドラコン大会への出場歴があり、飛距離アップ請負人とも言われる吉田一尊プロに、この高速テークバックについて話を聞きました。
「ダウンスウィングで地面反力を使うプロは多くいますが、デシャンボーの場合始動から地面反力を使うことで、テークバックのスピードを速くしています。テークバックのスピードが速いと、その分切り返しでの捻転差が大きくなり、筋肉が縮んで伸びる動き“伸長反射”が起こることで、ダウンスウィングのスピードをアップさせることができるんです」(吉田)
たしかに、デシャンボーは始動のときに左足→右足と足踏みをするように地面を踏み込んでいます。右足に踏み込んだ反力で右ひざを伸ばしているのが写真からもわかりますよね(画像A)。これが、吉田プロのいうテークバックでの地面反力。昔はテークバックで右ひざを伸ばすな、と教えられたものですが……時代は変わりました。
このように、始動から地面反力を使った結果、切り返しでは、上半身と下半身の大きな捻転差が生まれます。画像Bをご覧ください。デシャンボーの巨大な筋肉が高速テークバックによって伸ばされ、それが縮むことでより大きなパワーとスピードが生まれていくのです。
ドラコン大会を取材した経験から見ても、ほとんどのドラコン選手はこの手法を取り入れていますね。「アーノルド・パーマー招待」でデシャンボーに惜しくも敗れたリー・ウエストウッドが言っていたように、これだけ振っても曲がらないのはすごいの一言です。
さて、デシャンボーのようにトレーニングを積んでいなくても、この飛ばしのエッセンスを取り入れることはできます。
まずはクラブのヘッド側を持った素振りから始めましょう。シャフトで風を切る音がするように素振りを繰り返すと、速くテークバックして速く振る感覚がつかめるはずです。この素振りは脳にスピード感を覚えさせる効果があり、始動や切り返しのタイミングをつかむことにも役立ちます。
体が少し温まったらグリップを握ってテークバックのスピードをいつもより上げて素振りしてみましょう。普通に上げるのとは違って、上げ方や上げる位置などがあまり気にならないことも高速テークバックのメリットのひとつ。始動からスピード全開で上げようとすることで、自然と足踏みを使って始動する動きも身についてくるはずです。
実際にボールを打つ際には、デシャンボーやドラコン選手のように速く大きなテークバックをできなくて構いません。テークバックを速くしよう! とするだけで、オートマチックに振る感覚になれば成功です。一発の飛距離を出すというよりも平均飛距離を伸ばすようにイメージすると無理なく飛距離アップが望めると思います。
最後に一点、くれぐれも体力に合わせて無理のない範囲で行うことをお忘れなく!