“第5のメジャー”と呼ばれる「ザ・プレーヤーズ選手権」を取材した週刊ゴルフダイジェストのツアー担当・ケンジロウ。今回は担当者に聞いたブライソン・デシャンボーのクラブの「3つの秘密」をレポートする。
こんにちはケンジロウです。
フロリダ州のジャクソンビルよりお届けしております。TPCソーグラスで行われたザ・プレーヤーズ選手権が終わりました。
先週のジャクソンビルはずっと晴天に恵まれ、毎日気持ちのいい春の陽気でした。アーノルドパーマー招待に続いて先週もギャラリーがたくさん入っていて、みな久しぶりに再開した試合観戦を大いに楽しんでいる様子でしたね。
そんなギャラリーたちが一番多く集まったのが、(このコロナ禍でひとつのグループにこれだけ集まるのはちょっといかがなものかと思いますが……)ブライソン・デシャンボーの組です。
彼がドライバーを振り回すたびに、ギャラリーはみな、「ゴー!ブライソーン」とか「ビッグディー」(デシャンボーの頭文字のDをとって)とか、「ババブーイ」(これはちょっとよく意味わかりません)など、思い思いの叫び声をあげて楽しんでいました。
ロングホールのティショットでデシャンボーがドライバーを持たないとギャラリーはみな不満顔。やっぱり彼がドライバーを振り回す姿を見たいんですよね。
でもパー5の9番ホールでは、ドライバーを打たないことに不平不満を言っていたギャラリーの1人のところにデシャンボーが歩み寄って、ボールをプレゼントしていました。そんなやさしい一面もギャラリーを引き付ける理由のひとつなんでしょうね。
さて、今回はそのデシャンボーの話です。試合が始まる前の練習日に、彼のクラブ担当の人たちから、いろいろと事情聴取してきました。するとあれやこれやと情報が出てくる出てくる。
ちなみに、今回事情聴取したクラブ担当の方々は以下の3人です。デシャンボーのクラブのシャフト、パターのシャフトを手掛ける「LAGP」の担当ジョーさん。そしてこちらもクラブのグリップとパターのグリップを手掛ける「ジャンボマックス」のジョンさん、そして最後にパターのヘッド「SIK」を取り扱う、担当グレッグさんです。
まずはLAGP(以下LAゴルフ)のジョーさんの話から。
デシャンボーが「LAゴルフ」というシャフトメーカーのものを使っているのは日本の皆さんもご存じかと思います。デシャンボーは、元々は「マトリックス」という名前のシャフトを使っていました。約1年前からLAゴルフという名前に変わっています(LAGPがマトリックス社を買った模様)。
ジョーさんによれば、「デシャンボーとはSIKパターのラボで6、7年前からテストを始めました。そのときのブライソンのパットのスタッツは219位とツアーでも最下位でした。でもテストした結果が良くて、そこからずっとうちのシャフト(当時はマトリックス)を使ってくれています。その後は彼の意見を元に何度も改良を重ねてきて、1年前にここ(プレーヤーズ選手権)にきたとき以降、今のシャフトから変わっていないですね」とのこと。
デシャンボーがLAゴルフのシャフトのどこを気に入っているかというと、「エネルギーが強いからラインに乗る時間が長い」という理由だそうです。確かにデシャンボーのパッティングを見ていると、最後のひと転がりでカップインするシーンをよく見ますよね。まさに“転がりのいいシャフト”と言ったところですかね。
何せシャフト自体が180グラムありますからね。重くて硬めのシャフトなので、安定性は抜群なんでしょうね。通常のスチールシャフトだと125グラム程度ですから、その重さのほどがわかると思います。と、ここまではよく聞く話ですが、ここからが本題、「クラブの秘密」のひとつ目です。
ジョーさんからの口から出たのが、「ブライソンのパターのシャフトはノンテーパーなんです。彼がテーパーをつけないでくれというから特別に作ったんです」ということ。
えっ、テーパーじゃないの? いったいなぜ?
「ブライソンはパットを打つ前にボールの後ろにしゃがみこんで、シャフト越しにラインを見ていますよね?そのときシャフトにテーパーがかかっていると正しい狙いがとれないんですって。それで彼が気に入るような真っすぐのシャフトを作ることになったんです」(ジョー)
んー、なるほど。デシャンボーなら言いそうな話。確かに彼はグリーン上のルーティンで、ボールを目標に合わせるときに、ボールの後ろにしゃがみこんでクラブを掲げてシャフトとラインをそろえて片目で目標を見ますよね。
あのときにテーパーがかかっているとラインが歪んで見えちゃうということですね。
さて、続いて二つ目の秘密。同じくパターの話題ですが、今度はロフトの話。こちらはSIKのグレッグさんが証言してくれました。
と、本題に入るその前にデシャンボーのパターのスペックを教えてもらいました。彼はアームロックパターを使っていますが、長さは43インチ、ライ角は79度(80度のときも)とルールギリギリ! そしてロフトは、、、ベイヒル(アーノルドパーマー招待)では5.5度でした。
ベイヒルでは? いったいどういことなのか……。
そう、つまりデシャンボーは試合によって毎回ロフトを変えているというんです。
でもいったいなぜ? 以下、グレッグさんの証言です。
「試合によって毎回グリーンの状態が違うので、彼はグリーンの芝によってロフトを変えています。例えばソフトなグリーンの場合は芝の抵抗が強いので、ロフトを寝かせて打ち出しを高くし、打った直後のボールと芝の接地を減らしているんです。できる限りキャリーを出してそのあとの転がりをよくしたいんですよ。グリーンによりますが、ロフトの幅はだいたい2、3度ありますね」
最大でロフト8.2度まであると言うから、優勝したベイヒルの場合は少し立たせていたんでしょうね。
確かにデシャンボーと言えば、いつもインパクトを分析する機器のGCクワッドをグリーン上に持ち込んで何やらいろいろチェックしています。何をしているかというと、いろんな距離を打ち分けて各距離のボールスピードを見ているんだそうです。それでロフトをどうするか判断しているですって。ほんと細かい話ですけど、でもそれが1打、2打の差になって現れるんでしょうね。
では三つ目の秘密。グリップ屋さんのジョンさんの話です。デシャンボーはジャンボマックスというブランドのグリップを使っていますが、まずはそのパターグリップの説明から。
「パターグリップはアームロック用の17インチモデル。USGAのルールの中の一番ワイドなグリップを使っています。重さは138グラムで、約2ミリテーパーしています。このグリップだとリストを使いづらいので、そこを彼は気に入ってくれています」
続いてショット用のクラブのグリップ。パターほどではありませんがこちらも太いグリップで、「彼みたいにスピードを出して振るにはグリップの安定性が必要ですからね」とジョンさんは言います。
実はこのショット用のグリップに三つ目の秘密があったんです。ここからが本題です。
「彼はグリップを左手の手のひらの下部のファイザーフォームボーン(Pisiform bone=豆状骨)にくるように握っています。そのファイザーフォームボーンはオーナーボーン(Ulna bone=尺骨)とつながりが深くて、彼はこのオーナーボーンを使ってスウィングがしたいんです。我々のグリップはそのファイザーフォームボーンにグリップエンドがしっかりはまるように設計しているんです」
むむむ、何やら難しい話しが出ましたね。ファイザーフォームボーンとは、日本語で豆状骨と言い、左手の手のひらの右下部分の少し盛り上がった部分です。
ちょっとわかりづらいので、ジョンさんにもう少し詳しく説明してもらいましょう。
「オーナーボーンでクラブをリードして振るのがなぜいいかというと、オーナーボーンを使えると手先ではなく体の大きな筋肉を使えるからです。背中まで含めた体全体でワンピースで振れて、ブライソンみたいなスピードも出せるし、インパクトも安定します。またラフとかでもすごくいいんですよ。ラフだとクラブが意図せずツイストしてヘッドが返るときがあると思いますが、ファイザーフォームで握れればインパクトでグリップがブレることがありませんからね」
そう話しながら、実演してくれたジョンさん。オーナーボーンとは、日本語で尺骨のこと。前腕の2本の骨のうちの外側なので、確かにそこを意識できれば、背筋とか背中とか体全体を使って振るイメージは出るかもしれませんね。
今まで「豆状骨」や「尺骨」など気にしたことなかったけど、ちょっとやってみようかな…。
ちなみに今のグリップの重さは50グラム。クラブのバランスはE5だそうです。USアマに勝ったときなどは、123グラムのグリップでバランスはC7だったそうですがね。だいぶ重いバランスでもあのスピードが出せるようになったということですね。
以上、ブライソン・デシャンボーの三つの秘密でした。ジョーさん、グレッグさん、ジョンさん、ありがとうございました。
「僕ら現場じゃ仕事が追い付かないから、ホテルのロビーでグリップやシャフトを組んでいるよ(笑)」と最後に言い残したジョンさん。確かに“科学者の研究”に毎度応えのは大変そうですが、まあでもボスが結果を出してくれるから、その仕事も報われているのかな。
それでは今回はこの辺でお開きにしましょう。また次回お楽しみに!