難攻不落の葛城GCを19歳の山下美夢有が落ち着いたプレーで3日間をリードする展開となった今年のヤマハレディース。昨年10月「樋口久子 三菱電機レディス」の現地取材で見たときは、スウィングの安定度が高くショットメーカーという印象だった山下選手でした。
その後、12月に開催された新人戦の「加賀電子カップ」ではセキ・ユウティン選手に惜敗したものの、番手間の距離を抑えて打つコントロールショットの精度の高さが素晴らしく、その点を会見で質問すると、ツアーに出られるようになってから重点的に練習しているのだと答えてくれました。オフを経て、その精度はさらに高まっているようです。
一方の高橋彩華選手は、奥嶋誠昭コーチのもとオフにトップでのシャフトの向きをターゲットよりも左に向ける改善を施したことでショットが安定し、前週の「アクサレディスゴルフトーナメント」では3位タイ。いよいよ初優勝に手が届く位置での最終日に、奥嶋コーチをキャディにつけ万全の態勢で臨みました。
最終日は、そんな山下、高橋両選手を高橋選手と同じ奥嶋コーチに師事する稲見選手が猛追する展開。とくにサンデーバックナインに入ってからの稲見選手の勢いはすさまじく、10番、12番、13番、15番とバーディを重ねます。
山下選手も負けじと13番でチップインバーディ、15番でもバーディを奪い頭ひとつ抜け出しますが、17番で痛恨のボギー。1打リードを持ってクラブハウスリーダーとなった稲見選手に対し、18番パー5のバーディを決めきることができずに、惜しくも初優勝を逃す結果となりました。
稲見選手は決勝ラウンドで6バーディノーボギーを二日並べる素晴らしいフィニッシュでした。
初優勝を狙う山下選手と高橋選手は、終盤を迎えるまでナイスプレーを続けていましたが、プレッシャーで体が思うように動かなくなったところでこらえきれずにボギーとしていたのに対し、3週前に通算3勝目を挙げたばかりの稲見選手は、最終ホールのバーディパットを決め切る強さがありました。
7位タイで終えた前週の「アクサレディスゴルフトーナメント」の練習場ではテークバックの感覚を確かめながら長い時間練習する姿がありました。「テークバックで腕と体の調和を意識して練習しています。今はこれしかやっていません」と奥嶋誠昭コーチはいいます。
スウィングの完成度が上がって来たことに加えてオフのトレーニングによって疲れにくくなったことも功を奏しているようです。
ドライバー平均飛距離の順位とフェアウェイキープ率の順位の和で示されるトータルドライビングの順位に、パーオン率の順位を足した「ボールストライキング」という指標がありますが、稲見選手はペ・ソンウ選手、原英莉花選手、小祝さくら選手らを抑えてその部門で1位。飛距離、正確性ともに優れていることがわかります。
そして奥嶋コーチに稲見選手の強さの原動力を聞くと、一学年年上でプロは同期入会、ヤマハレディースでは最後まで優勝を争った高橋選手の存在を挙げます。
「高橋とはすごく良いライバル関係ができているので、高橋が上位にいたことで絶対に頑張ると宣言して出ていきましたね」(奥嶋)
決勝ラウンド2日間で66を並べての優勝はちょっと記憶がありません。同門の高橋選手が上位にいることがあったにせよ、そこに追いつくためのプレーに集中できていました。
高橋選手との良いライバル関係でお互い刺激し合いながら着実にトッププレーヤーへと階段を登る稲見選手。そして惜しくも初優勝はならなかった山下選手、高橋選手はこの経験を糧に次のチャンスには初優勝を手にするかもしれません。
2021年の女子ゴルフツアーはまだ始まったばかり、引き続き注目していきましょう。