2年前の第一回大会では安田祐香と笹生優花の“ダブル・ユウカ”が3位に入り話題になったが、コロナの影響で昨年の大会は中止。そこに出場する予定だった梶谷にとって今年の大会は待ちに待った夢舞台だった。
予選の2ラウンドは近隣のコースを使いオーガスタでプレーできるのは最終日だけ。フィールドのおよそ3分の1に当たる上位30名のみが決勝に進むことが許される。予選を終え首位に2打差につけた梶谷は一時6人がトップに並び誰が勝ってもおかしくない状況から終盤頭ひとつ抜け出した。
ところが大詰めの17番で痛恨のダブルボギーを叩いて結果は先にホールアウトしていたエミリア・ミリアッチョとのプレーオフに持ち越された。
予選ラウンドで梶谷のプレーを見たという21歳のミリアッチョは「試合がはじまる前はツバサのことは知らなかったけれど、ドライバーがすごく上手くて驚いたわ。ドローもフェードも打ててパットもよく入る。見ていて楽しい選手だった」と印象を語っていたがプレーオフではショットが乱れ、パーをセーブできず2オン2パットのパーで上がった梶谷が栄冠に輝いた。
「この試合で良いプレーをしてアマチュアランキングを上げて、もっとたくさん試合に出られるように頑張りたいと思っていたけれど、まさか自分が勝てるとは…。目標を達成できて夢が叶い素直にうれしいです」と通訳を介して記者会見で語った梶谷。その初々しい姿にオーガスタナショナルのフレッド・リドリーチェアマンも目を細めた。
試合後はこんなサプライズも。自動車事故で重傷を負い自宅療養中のタイガー・ウッズからSNSでお祝いのメッセージが届いたのだ。「プレーオフでの素晴らしい優勝、ツバサ・カジタニさんおめでとう。特別な瞬間を楽しんで」。思いがけない祝福に17歳は瞳を輝かせた。
2年前の安田をはじめ古江彩佳らプラチナ世代がツアーを席巻する国内女子ツアー。その下の梶谷もプロに転向すればすぐに活躍できそうだが、経験が必要とされるゴルフで近年ナショナルチーム出身のプレーヤーが若くして結果を出すのはなぜなのか?
その答えのヒントをマスターズ出場経験のある金谷拓実はこう語る。「ガレス・ジョーンズがナショナルチームのヘッドコーチになってから自分たちは大きく変わりました」
データに基づいた緻密で理論的な指導がジュニアたちを「大きく成長させた」という金谷はプロになったいまもジョーンズ氏にアドバイスを仰いでいる。
さらにきっかけを作ったのが畑岡奈紗。日本女子オープンにアマチュアで優勝したとき同世代の少女たちのモチベーションは劇的に上がった。それから渋野日向子がメジャーで勝ち、世界の舞台が手を伸ばせば届くところに近づいてきた。
黄金世代、プラチナ世代に続く新世代(梶谷/2003年生まれ!)がすでに躍動しはじめている。