新型コロナウイルスの影響により11月開催となった昨年の「マスターズ」。それから半年、本来の4月開催となってマスターズがオーガスタに帰ってきた。そのみどころを海外ツアー取材歴20年の大泉英子が解説!

いよいよ海外男子メジャー第1戦「マスターズ」が今週開幕する。昨年は、新型コロナウイルスの影響により11月に時期を延期して開催されたが、今年は例年通り、アゼリアの花が咲き誇る春に開催。美しく色鮮やかな「マスターズ」のグリーンが、再び戻ってくる。

さて、今年の「マスターズ」と、わずか半年前に開催された昨年の大会とで何か相違点があるのだろうか? 最も大きな違いは、「パトロンの存在」である。

昨年は無観客だったが、今年は人数を絞って有観客で開催されるため、再びオーガスタの谷にパトロンたちの拍手と歓声が戻ってくる。先週の「バレロ・テキサスオープン」で2017年「全英オープン」以来の優勝を飾ったジョーダン・スピースも、観客たちの入場を心待ちにしている1人である。

「パトロンはマスターズにとって不可欠の要素だ。彼らの存在や歓声がないと、今まで慣れ親しんだコースとはまったく違うものになる。昨年、マスターズでプレーしたのはワクワクしたが、それでもパトロンがいないと同じではなかった。今年は、通常通りの人数は入らないにしても、いつものマスターズを感じさせてくれるので嬉しいね」

2月末に交通事故で瀕死の重傷を負ったタイガー・ウッズは欠場するが、通常は人一倍観客を引き連れる彼は、パトロンのいないオーガスタを次のように語っていた。

「他のホールからの歓声もないし、パッティンググリーンから1番ティに向かうところでの歓声や拍手もない。13番でイーグル、なんていう時の歓声も聞こえない。本当は観客たちがこのトーナメントの全てなのに、今年はそれがない。エネルギーが足りない」

コースは同じで、グリーンジャケットに袖を通すことを目標に戦うのはいつもと同じなのだが、スピースやタイガーが語るように、観客の存在そのものや観客からの熱気、エネルギーといったものがないのは、マスターズというパズルにおいて大事なピースが欠けているのと同じことなのだ。昨年は、選手たちにとって観客の存在のありがたみを改めて感じた1年になったと思うが、マスターズの場合はさらに特別。

画像: 今年はマスターズ名物でもある「パトロン」ありの開幕となる(写真は2019年マスターズ 撮影/姉崎正)

今年はマスターズ名物でもある「パトロン」ありの開幕となる(写真は2019年マスターズ 撮影/姉崎正)

オーガスタはPGAツアーや他のメジャーのように、リーダーボードがあちこちにあるようなコースではないので、彼らの一喜一憂する歓声で、他の選手の追い上げなどを知るバロメーターとなる。また、その歓声や拍手を肌で感じることで、自分を奮い立たせるエネルギーとなるのだ。PGAツアーなどではすでに一部観客を入れて開催し始めているが、海外男子メジャーでは初の試みだ。改めてパトロンのいる「マスターズ」に出場できる喜びを選手たちも感じることができるだろう。

一方、無観客時には可能だったコース攻略が、今回は不可能になる。ブライソン・デシャンボーやフィル・ミケルソンらは前回、「パトロンがいないから、もっと広くコースを使える」「通常パトロンがいるラインに対して、(無観客だから)打っていける」と語っていたが、パトロンが入れば、ホールの両サイドに人垣ができ、パトロンがいないロープ内に球を収めていくような攻め方をしないといけないため、コースが狭く感じられるはずだ。その分、昨年よりも精度の高いショットが求められることになる。過去に何度もプレーしたことのある経験者は通常のマスターズでのコースの攻め方を熟知しているが、昨年が初出場で優勝争いに加わっていたイム・ソンジェやエイブラハム・アンサーたちとっては、パトロンが入るオーガスタの強さ、圧迫感を感じることになるだろう。

それと、もう一つ決定的に異なるのは、グリーンのスピードと芝の種類だ。前回は皆口々に「グリーンがソフトで止まりやすい」と語っていたが、スピースは「例年よりもグリーンがすでに硬く、スピードが速いらしい」という情報を入手していた。「ガラスのようなグリーン」と形容されるオーガスタのグリーンが戻ってくるというわけである。

また通常、春に開催される時のオーガスタの芝はオーバーシードされた状態なのだが、前回はバミューダグラスやライグラスがところどころ入り混じり、グリーン周りのアプローチで違和感を感じたベテランたちが多かった。昨年大会の初日に65をマークし、首位に立ったポール・ケイシーは

「今年スコアが伸びているのは、グリーンがソフトで、バミューダ芝だから。バミューダだとグリーンで球が止まりやすいんだ。グリーンも遅めだが、これは雨のせいだけじゃない。バミューダだからだ」

と分析。通常なら、グリーンを狙うショットが止まらずに、球がハネてパトロンの方まで転がってしまうことも多いのだが、昨年はケイシーのいうように芝の種類が異なり、アグレッシブに攻めていける状態にあった。

最近では、過去に何度そのコースを回ったことがあるか、という経験が問われることが少なくなり、パワーとテクニックさえあれば、若手選手もいきなりメジャーで優勝できる時代になった。だが、毎年同じ場所で開催される「マスターズ」だけは、「知識と経験がものをいうコース」。怖いもの知らずの未経験者がアグレッシブにピンを攻め、1日は好スコアをマークすることもあるかもしれないが、回れば回るほど怖くなり、過去のミスがトラウマとなってしまうこともあるのがオーガスタの怖さだ。ミスしてもどこに行ってはいけないとか、このグリーンはここにボールを落とさなければ寄らない、といった知識は必要不可欠。力と若さだけでねじ伏せることができないのが「マスターズ」なのだ。

ディフェンディングチャンピオンで世界ランク1位のダスティン・ジョンソンや、「プレーヤーズ選手権」で優勝したジャスティン・トーマス、「全米オープン」と「アーノルド・パーマー招待」で今季2勝を飾っているブライソン・デシャンボーなどは大本命だが、しばらく優勝から遠ざかっていたブルックス・ケプカやジョーダン・スピースも再び自信を取り戻してオーガスタに戻ってくる。

今季絶好調のベテラン、リー・ウエストウッドの存在も無視できない。そして、唯一の日本人選手で出場10回目の松山英樹の活躍にも期待がかかる。

画像: 手打ちが直る!?ロリー・マキロイのスウィングをじっくり観察して自分のスウィングに取り入れよう youtu.be

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