小学生のころは毎朝4時半から河川敷コースの「新東京都民ゴルフ場」で18ホールプレー。学校から帰ると再びコースに戻り、日没までの廻り放題を利用して腕を磨いた稲見萌寧。1日10時間練習する生活を10年間続けていたことが、プロ入り直後には話題になった。
「稲見選手を支えているのは、やはりその膨大な練習量。そして、その積み重ねでしょう。テレビ番組で『世界一練習しなければ世界一にはなれない』と語っていましたが、その練習量は目を見張るものがあります」と語るのは、プロゴルファーの中村修。
「2018年のQT(予選会)のファイナルに進めず、翌年の出場権のない稲見選手が2019年、少ないチャンスをモノにして出場権を獲得し、初優勝にまでつなげた背景には、奥嶋誠昭コーチと出会い、球筋をドローからフェードに変える改造があります。そして、今オフではテークバックの上げ方を、ときに奥嶋コーチとケンカするほどぶつかりあいつつ調整したと聞きます。それが功を奏しているのが2021年に入っての活躍の一因ではないでしょうか」
稲見はオフの間にテークバックで腕と体が調和するような動きに調整。当初はその動きに違和感を覚え、コーチとぶつかり合いもしたようだが、結果的にはこれが功を奏し、ショットの安定度がさらに高まるという結果に。
「聞けば、オフにはキックボクシングのトレーニングを取り入れたといいます。それによって疲れにくくなったことも、成績の安定につながっているようです」(中村)
実際、そのスタッツは見事の一言。パーオン率3位、フェアウェイキープ率10位、トータルドライビング3位、ボールストライキング1位と精度の高さがツアー屈指であることが容易にわかる。ショットでバーディが獲れる精度に加えて、リカバリー率も1位。結果、パーセーブ率も1位。ダブルボギー率(ダブルボギーの少なさの指標)も1位だ。
また中村は、「日本ツアーに集中できている点」も稲見の強さの秘密のひとつだとこう言う。
「渋野日向子選手をはじめ、多くの若手選手が海外での活躍を目標としていますが、稲見選手は国内志向。プロ入り直後から最大の目標として“永久シード獲得“を挙げています。国内ツアーにフォーカスできていることも、いい方向に出ているのではないでしょうか」
昨年は海外メジャーにも挑戦した稲見だが、軸足はあくまでも国内ツアー。スウィングや技術や環境を“国内仕様“専念できるのもメリットのひとつと言えそうだ。
プロ合格から3年弱で早くも5勝。永久シードは過去6人しか達成者はいないが、まだまだ成長のポテンシャルを持つ稲見がこれからもっと強くなるならば、決して達成不可能な数字ではないようにも思えてくる。
今週末、最年少でのツアー3週連続優勝に挑む稲見に注目だ。