47歳のスチュワート・シンクが、今季2勝目を挙げた。
松山英樹が優勝した「マスターズ」では12位タイと上位に終わったシンクが、その翌週の「RBCヘリテイジ」で2位のハロルド・バーナーⅢ、エミリアーノ・グリジョに4打差をつけ、ツアー8勝目をマーク。今季初戦の「セーフウェイオープン」で既に1勝を挙げていたが、今季、複数回優勝しているのは、「全米オープン」チャンピオンのブライソン・デシャンボーと彼だけである。
そして、今回の優勝によりフェデックスカップランキングでは3位に、世界ランキングでは45位に浮上。世界のエリート・トップ50入りを果たし、「全米オープン」の出場権も手に入れた。「全米オープン」出場は2017年以来、4年ぶりとなる。
ちなみに1960年以来、年間2勝以上を挙げた47歳以上の選手は、サム・スニード、ジュリアス・ボロス、ケニー・ペリーに次いで4人目。今大会でデービス・ラブⅢは5勝を挙げているが、シンクもヘール・アーウィンの3勝に並んだ。
「今週は、特に何も変わったことはしてないよ。今まで通りにやっただけなんだ。今週はとても調子がよく、安定した1週間だったよ。ただ、他の優勝のときと違って特別な思いがするのは、この年齢で優勝でき、しかも(息子の)リーガンがバッグを担いでくれたこと。コナー(息子)とそのフィアンセ、そして妻のリサ、何人かの友達が優勝を見守ってくれたことだ。人生でこういうことはあまり頻繁に起こることではないけど、それを経験できて本当に幸せだ」
最近は新型コロナウイルスの影響で、ギャラリーや家族が入場できない試合も多い中、今大会はギャラリーも家族も入場が許可されていたおかげで、彼の大事な人たちに見守られながら優勝し、ともに祝福することができたのは最高だと語った。特にリサ夫人は数年前にステージ4のガンと診断され、現在治療中の身。
調子は徐々に良くなっているそうだが、一緒にコースを歩いて応援してくれたのが何よりも嬉しかったに違いない。そして息子のリーガンさんと二人三脚で2勝目を勝ち取ったことも、言葉にならないくらい嬉しいと語った。
「僕たちは波長が合うんだ。同じDNAを持っているだけあって、文字通り同じ人間みたいだ。考えることも、言う冗談も同じだし、面白いものを面白いと思える感性も同じだ。彼には本当にキャディが合っており、いかに息子をキャディに従えてプレーすることが最高なことか、言葉では言い表せないよ」
リーガンさんはデルタ航空の従業員だそうだが、前回の「セーフウェイ」でもバッグを担いでもらって優勝できたこともあり、シンクは「マスターズ」を皮切りに今シーズン、息子にキャディをやってほしいと考えていた。それをリーガンに尋ねたところ、彼も乗り気で、デルタ航空のチームの人々に電話で事情を説明した。幸い、デルタ航空のCEOエド・バスチャン氏もシンクの知り合いだったため、シンクから「もしキミなら、こういう場合どうする?」と切り出したところ、バスチャン氏は快くリーガンをキャディに送り出してくれたという。
「これは人生であるかないかの機会だ。我々はリーガンが大好きだし、デルタでこの先40年以上働いてくれると思っている。1年待つことくらい、大したことじゃない。だからリーガンにキャディをやってもらって」
多くを語らずして、自分の考えを即座に察してくれる強力な助っ人を確保できたことは、彼のゴルフにとって最大の収穫だ。だが、シンクにはキャディだけでなく、スイングコーチやショートゲーム、メンタルのコーチ、フィットネスコーチといった強力なサポーターがバックについている。中でもショートゲームやパッティングのコーチで、時にメンタルコーチの任も担うジェイムス・シークマン氏の存在は大きいという。
シンクがパッティングの際、打つ前に何か言っているのに気づいた人もいるかもしれない。これはシークマン氏と取り組んでいることの一環だという。
「プロセスを経てこそ、正しく成功できるということを一緒に取り組んでいるんだ。我々は自分たちでコントロールできることしか、コントロールしようとはしないから。結果はコントロールできないし、ボールの跳ね具合や風、グリーン場でのボールの転がり、カップで蹴られることなどは自分ではコントロールできないからね。でも、インパクトするまでの自分の動きはコントロールできる」
「打つ前に僕の口が動いているのに、たぶんみんな気づいていると思うけど、それは自分自身に言い聞かせるためにつぶやいてるんだ。毎回パットを打つ前に、「最大限、自分を信じて打つこと」「最大限、心穏やかに打つこと」みたいなことを大きめの声で言ってから打つようにしている。これをいうことでプレショットルーティーンを構築し、意識的に集中できるようにしている。“ルーティーン”という言葉は好きじゃないし、我々が取り組んでいることを表現するのに正しい言葉ではないが、集中力とリズムを必要とする動作であり、成功するための“軌跡”のようなものだ」
誰でもミスショットやミスパットはしたくない。シンクは自分の気持ちを落ち着け、自信を持って思い通りにヒットできるよう、声に出して自分自身に言い聞かせているのだという。自分でコントロールできないことにフラストレーションを抱えることはしない。自分でコントロールできることだけに、穏やかな気持ちで集中して取り組むための方法なのだと語る。
47歳といえば、現役若手選手と一緒にレギュラーツアーで戦うことを諦め、シニア入りを待つ選手も多い年頃。実際、試合で結果を残せない選手も多く、試合に出ることのモチベーションが下がる人も多い。だが、シンクのように人生を楽しみながら、自分がコントロールできないことに対してはフラストレーションを抱えずに、自分で対処できることに集中して成果を上げる、というやり方をとれば、余計なストレスを感じることなく、楽しく息の長いゴルフができることだろう。年間で複数回優勝を遂げる選手は、若手でもそう多くはないが、パワーゲームになっている昨今のツアーで彼が優勝できているのは、弛まぬ技術面、肉体面の努力のみならず、成熟した心の持ちようが大きいのではないか、と思う。