数年前から、ドライバーの短尺化やヘッドの軽量化などの、ちょっとマニアックなチューンがしばしば話題になる。それは一体なぜか? ギアライター高梨祥明が、マニアックチューンが流行する背景を詳しく解説!

なぜ、カスタムをしたくなるのか? そこを考えるのが何よりも重要

数年前からドライバーをめぐるカスタムチューンの話題が途切れることがない。5年ほど前に“流行った”のは、プチ短尺化である。460CCのフルサイズヘッドを44〜43.5インチ程度にして使用する。PGAツアーでリッキー・ファウラーやジミー・ウォーカーが実践したことで、日本でもマニアックなファンの間では話題になった。

ソール後方に配置されたアジャスタブル・ウェイト。ヘッド重心位置を微調整する役割だが、設計的には高慣性モーメント化のためにもここに重さが必要なのだという。軽量ウェイトにすることはせっかくの慣性モーメントを低下させてしまうことになる

次に3年くらい前から流行り出しているのが“軽硬(かるかた)シャフト”。高弾性カーボンシートの開発や素材コンビネーションによる設計自由度の拡大、そしてシャフトを生産する技術の進化によって、軽く(薄く)てもしっかりとした(中折れ感のない)シャフトが作られるようになったことで、トッププレーヤーでも60g台、場合によっては50g台の硬度Xなどの軽量シャフトを使用するようになったのだ。

こうしたことを背景にして、たとえばフジクラの「プラチナムスピーダー(2021年3月発売)」では、ついに40g台の硬度X(3X/44.5g)も登場。ここまでいかないまでも、少し振れるゴルファーが50g台の硬度SやXを使用するのが当たり前の感覚になってきているのである。

そして、今、SNSやYouTubeで少し話題になってきているのが、ドライバーヘッドのアジャスタブルウェイトを数グラム程度軽いものに交換するチューン。アジャスタブルウェイトというとヘッドの重心位置を移動させてつかまり度を変えたり、打点傾向に重心を合わせるために使うイメージが強いが、最近は単にヘッドを軽くする目的で軽めのウェイトに交換するというのである。

数年前に日本の女子ツアーでは“ウェイト外し”が流行っている! という記事が話題になったこともあったが、ここへきてまたライトウェイトへの交換ブームがじわりと来ているようで、メーカーやショップへの交換用ウェイトに対する問い合わせが増えてきているようだ。かつては鉛テープをヘッドに貼って重めにするがチューンナップのイメージだったが、今はいかにヘッド重量を軽くするかがカスタムのポイントなのだ。

では、なぜ、ドライバーだけにこんなプチ・カスタムのトレンドが繰り返しやってくるのか? ここに注目すると進化したドライバーの性格がとてもよくわかってくるはずである。

最初から軽量モデルを選べばプチ調整要らず。高慣性ヘッドなら純正シャフトでまずテストするとよい

・シャフトを短くする
・シャフトを軽く・硬くする
・ヘッドを軽くする

この5年で話題となったプチ・チューンの目的は、基本的には同じである。なんとなく“振りにくい”と感じるようになったドライバーを“扱いやすく”するためのチューン。そう考えていただければよいと思う。

とくにこの5年はドライバーヘッドの慣性モーメントをいかに大きくするか、そこに開発の主眼がおかれ、モデルチェンジが繰り返されてきた。この2年間はPING、テーラーメイド、キャロウェイの米国3ブランドのドライバーが日本市場を席巻。国内メーカーでもこれに倣うように慣性モーメントアップを狙った開発が相次ぎ、高慣性モーメントドライバーだらけの市場になっているのが実情だ。

なかなかフェースのいいところで当てられない一般ゴルファーにとって、芯を外してもエネルギーロスを抑え、無駄なサイドスピンの増加を防いでくれるヘッドの高慣性モーメント化は非常にありがたい“進化”であるが、これが行きすぎてしまうとゴルフクラブとしては弊害も出てきてしまう。それが、人によって感じる“振りにくさ”、“扱いにくさ”である。

高慣性モーメントヘッドは一度動き始めた方向に対して、“動き続けようとする力(慣性)が強い”。この力を意図した方向に沿って使うことができれば無類の効果を発揮するが、これが思惑と違う方向に作用してしまうと、スウィング中に軌道修正するのは至難の技となる。ドライバーのようにシャフトが長く、重たいヘッドが体から遠い場所にある場合はなおさら、遠心力も加わってヘッドを小手先でコントロールするのは難しくなるのだ。

例えは極端だが、ハンマー投げの“ハンマー”を腕や手首の動きでコントロールしようとしても無理。体幹を鍛え上げ、あれほどのマッチョにならなければ、本来、強い慣性の物体を狙った方向に放り投げていくことは難しいのである。

ドライバーショットはもちろんハンマー投げとはレベルが違うが、ヘッドの慣性が大きくなればコントロールしにくく、スウィング中に道具に振り回される感覚になってしまう可能性がアップするのは間違いない。だからこそPGAツアーのトッププレーヤーの中にも短くしたり、軽いシャフトにしたり、軽ヘッド化することで、振りやすさと扱いやすさを調整しているプレーヤーがいるのである。

ヘッドの慣性モーメントはルール上、5900g・cm2という上限値が規定されており、クラブメーカーはこの上限目指してヘッドの開発を行ってきた。この結果、今では5500g・cm2とほぼMAXといえる数値に到達しているモデルが登場するまでになってきたのである。

しかし、実際はそうした高慣性ドライバーほど、軽量ウェイトへのプチ・チューンや軽・硬シャフトへのチューンナップで“よくなった!”という声が大きい。だからこそ、それがマニアの間で、“話題”になるわけである。高慣性ドライバーをそのまま扱える人ももちろんいるが、とくに日本においては“クラブに振られてしまう”と感じる人も多い。パーシモンや小さいメタルヘッドの時代からゴルフをやってきた人にとって、現在の高慣性モーメントドライバーは「振り感」が異なる道具なのである。

体幹の強さ、ゴルフを作ってきた道具の違い、アイアンなど他のクラブとのマッチング(つながり)などによって、高慣性モーメントすぎるドライバーで結果が出せない人は、実は少なくない。だからこそ、クラブメーカーではこの先、「高慣性モーメントが合わない」ゴルファー向けのドライバー開発がもう一つの選択肢として進められていくだろうと予想する。簡単に言えば、ゼクシオシリーズのような「日本人ゴルファーのために作られた、日本人が結果を出せるクラブ」、細かな調整の必要のない別モデルの開発だ。

ここ数年、国内メーカーも米国ブランドと変わらない開発コンセプトで新製品を作っている雰囲気があったが、昨年あたりからはブリヂストン「TOUR B X」や本間の「ツアーワールドGS」のように、明らかに日本の既存ゴルファーをターゲットにしているであろうモデルも登場してきている。米国ブランドでもタイトリストの「TSi1ドライバー」のように、軽量化を追求することで一般ゴルファーでも振りやすいと感じる高慣性モーメントドライバーをラインナップする機運も高まっている。世界中のクラブメーカーが慣性モーメントの最大化に血眼になり、数字の上限を目指す時期はもう終わったのである。

画像: 「ゼクシオ」や「ツアーワールドGS」のように“トータルバランス”をコンセプトに開発された日本モデルにも注目。米国ブランドにもタイトリスト「TSi1」のようにそもそも軽量化を目指して開発された、調整要らずの振りやすい高慣性モーメントモデルもある

「ゼクシオ」や「ツアーワールドGS」のように“トータルバランス”をコンセプトに開発された日本モデルにも注目。米国ブランドにもタイトリスト「TSi1」のようにそもそも軽量化を目指して開発された、調整要らずの振りやすい高慣性モーメントモデルもある

これからは使いこなせる範囲での“ちょうどよい”高慣性モーメントの見極めと、高慣性モーメントをキープしながらクラブとしての扱いやすさを使い手に合わせていく新アイデア、バリエーションが問われる時代となるだろう。一部のマニアックゴルファーの間で話題のドライバーへのプチ・チューンも、その流れの一つである。

軽いウェイトに交換するカスタムが、誰にとっても必要で有効なわけではない。効果があった人にとっては、もともとのヘッドが重たすぎただけである。短くしたり、軽・硬にしたり、軽量ウェイトにする必要のないモデルを最初から選ぶ、という方法ももちろんアリである。

クラブ設計家・松吉宗之さんによれば、「PING G425シリーズのようにヘッドの高慣性モーメントによって生じる振りにくさを、モデル専用シャフトでしっかり補っているブランドもあります。ウェイトを外したり、軽量のものに交換する前に専用シャフトを試してもらうのも今どきのドライバー選びのポイント」だという。人気シャフトにこだわった結果、逆にヘッド重量のプチ・チューンが必要になってしまったケースもありそう、というから注意していただきたい。

This article is a sponsored article by
''.