マイケル・ビサッキは「ミニツアーのレジェンド」に異名を誇る27歳。そんな彼がはじめてPGAツアー出場を決め、男泣きに泣いた動画拡散されて話題となり、ついにはPGAツアーの公式サイトで取り上げられるまでに。にわかに“時の人”となったビザッキについて、海外取材経験20年の大泉英子がレポート。

メジャーで初優勝を遂げ、嬉し涙を流す選手もいれば、初めてPGAツアーに出場できる機会を得て、家族みんなで感激の涙を流す選手もいる。プロゴルファーの世界は、いったんプロの資格を得てもその頂点で活躍できる人はほんのごく一握りで、ほとんどの選手たちはなかなか思うような結果を残せず、賞金稼ぎに苦しみ、こころざし半ばでプロの道を諦める人も多い。

そんな厳しい世界で、27歳のミニツアーのレジェンドが初めてPGAツアーに出場できることになり、感激の涙を流して話題になった。フロリダ州サラソタ出身のマイケル・ビサッキだ。

彼は、今週行なわれている「バルスパー選手権」の月曜日の予選会に出場し、プレーオフの末、出場権を獲得。記者会見で自らの生い立ちや過去の苦労話などを披露し、それが数々のメディアを通して報道されて一躍有名選手になった。PGAツアーのSNSなどでもインタビュー中の映像が公開されたが、涙をこらえながら語った言葉に、世界のゴルフファンが感動した。

「自分の夢を諦めてしまう人はたくさんいるが、それはたぶんその夢を叶える力がなかったからだろう。でも僕は幸い、両親と一緒にいるし、僕がプロゴルファーで居続けるために助けてくれているんだ。僕は今までに決してやめようと思ったことはないし、これからも続けていくつもり。今後も戦い続けるよ」

ビサッキは、父マイクと母ドナの間に生まれた一人っ子で、両親は車椅子やストレッチャーなどの医療器具を輸送する会社を営む、いわゆる「ブルーカラー」の家庭の出身。家計は苦しく、マイケルに十分な食事を取らせるために、両親が食事を抜いたこともあったという。幼い頃はテニスもやっていたそうだが、父親の影響で8歳の時にゴルフを開始し、ジュニアの試合にも出るようになった。

しかし問題はエントリーフィの支払い。通常、大会の2週間前にはエントリーを済ませ、その際にエントリーフィも支払うシステムになっているが、両親は確実に試合に出られるのであれば、フィを払うとしてトーナメントディレクターに推薦してくれるよう交渉を試みた。ビサッキはその当時から優秀なジュニアゴルファーであることが知られていたので、当時のジュニアたちに課されていた規制を取っ払い、両親からのオファーを受けて、試合に出場させてもらっていたという。

画像: PGAツアー「バルスパー選手権」に出場するマイケル・ビサッキ(写真はGettyImages)

PGAツアー「バルスパー選手権」に出場するマイケル・ビサッキ(写真はGettyImages)

その後、ゴルフ推薦でフロリダ中央大学に進学したが、家計を助けるために1年で退学。「西フロリダ・プロゴルフツアー」というミニツアーに年間で35〜40試合出場し、現在までのところ37勝を挙げている。だから27歳にして、フロリダ・ミニツアー界のレジェンドと呼ばれているのだ。

ただしレジェンドとはいえ、ミニツアーの稼ぎはたかが知れている。試合によって異なるが、優勝賞金で5000ドル(約50万円)ならビッグイベントの部類に入る。だからどんなに勝っても、練習代や生活費などを支払えば、あっという間になくなってしまう。ミニツアーは通常、無料でエントリーできる試合もあるが、中には400〜600ドル(5万円前後)を支払わなければいけないものもあり、この手の試合で3試合も予選落ちすると、1500ドル(約16万円)の損失となる。ミニツアー転戦時の経費も抑えなければやりくりできず、ビサッキは2010年モデルのホンダアコードで、今も転戦しているのだという。

「2015年に購入した時、すでに走行距離は32000キロだった。その後の6年間で17万キロは乗ってるね。2018年のミニツアーで68000ドル(約740万円)を稼いだのが最高で、2018年のコーンフェリーツアー(PGAツアーの下部ツアー)の試合に出た時には27位タイに入り、約50万円を稼げたのはよかった。でも、コーンフェリーツアーの予選会や、もう少し賞金額の高い他のエリアで開催されているミニツアーに出るには、もっとお金がかかるんだ。地元フロリダのミニツアーに出るよりも経費がかかるからね」

そんな彼にとって、世界最高峰のPGAツアーの予選会に出場し、通過すること自体が大冒険。予選会を突破し、本戦出場が叶った時には、両親とともに大泣きして喜んだと言う。そして現在、初日を終えて3オーバーの129位と、予選通過が厳しい位置にいるが、彼のコメントに悲壮感はない。

「すごく楽しかった!信じられないような経験をしているよ。たくさんの人たちが応援してくれているし、すごく幸せだ。ただ目の前の1打に集中し、できるだけいいスコアで回ろうと思った。今回の経験は、今後の人生にすごく役立つと思う」

ミニツアーのいち選手のインスタのフォロワーが、4万人もいるのは珍しいことだが、彼の苦労話や生活ぶりに皆が共感し、つい応援したくなるような要素が彼にはある。最近「プレーヤー・インパクト・プログラム」という、SNSなどでゴルフファンに影響を与えたり、ツアーの盛り上げに貢献する選手たちにボーナスを支払うというプログラムが話題となっているが、ビサッキもこの新プログラムにおいては、今の時点で他のPGAツアー選手たちに負けていないかもしれない。

 

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