美しい名門コースのフェアウェイは誰の手で保たれているのか
芝生が綺麗に生え揃い“緑の絨毯”のようになったフェアウェイを歩くのは、とても気持ちいいものである。そして美しく整ったフェアウェイはさらなるナイスショットを生む。ショットの痕跡が目立たないコースに行くと、この上ない幸せを感じるものだ。「さすが名門コース! 管理が行き届いてるねぇ」などと納得することも多いだろう。
逆にセルフプレー主体で連日40組を超えるゴルファーが入っているようなコースは、残念ながら“美しい”とはいえないところもある。フェアウェイ・ラフのあちこちにショットの痕跡が残り、芝が生えているところも何だかデコボコ。コースメンテナンスをみて「やっぱり値段相応かな」と思ったことのあるゴルファーも少なくないはずだ。
しかし、この残念なコースコンディションは、ゴルファー自らが作り上げてしまったものだ。名門コースではアイアンやウェッジショットで芝を削り取ってしまった場合、キャディさんがサッと砂をかぶせ処置してくれるが、セルフプレーではこれをプレーヤー自らの手で行わなくてはならない。コースメンテナンスのサポート(キャディさんがやっていること全て)を“セルフ”でやる代わりに、リーズナブルな価格でプレーすることができているのだ。
本来やるべきことをやらずに、単に低料金でプレーして帰り、それでコースが荒れたら「安いコースだから仕方がない」というのはどうなのだろうか。ゴルファーそれぞれがキャディさんのようにすぐにショット痕に砂をかぶせていれば、セルフプレーコースでも美しく生えそろった緑の絨毯は保たれているはずなのだ。芝の早期修復のためにはできるだけ早く“処置”することが何よりも大事。ゴルファー自身がショット直後に行うのが、最も効果が高く、確実なタイミングでもあるのだ。
窪みを砂で埋めて“平ら”にする。芝生が砂の中に茎を伸ばし修復完了
それでは、ここで「目土の作法」についてご紹介しておこう。解説は太平洋クラブ八千代コースのグリーンキーパー、市村英昭さんだ。
「目土に難しい作法はありません。とにかく削り取ったディボット跡に砂を入れ、足で均してもらえれば充分です。目土の目的はショットによって窪んでしまった地面を元のように“平らにすること”です。芝面のデコボコをなくすことで、公平で美しいフェアウェイを保つことができます」(市村キーパー)
キーパーによれば、少し多めに、山盛りで砂を入れ、爪先で平らに均して仕上げるようにすると完璧だという。砂は人間が傷口にバンドエイドを貼るようなもので、芝生も傷口に砂を入れることで切れた茎の保湿となり、砂の中に茎が伸びていくことで窪みのないフェアウェイが早期に回復する。砂は傷つけた芝生に貼るバンドエイドだと思っていただければいいと思う。
この記事ではあえて「美しいフェアウェイのために」と書いているが、目土が必要なのはラフもまた同じである。フェアウェイに比べ意識が低くなりがちだが、しっかりとラフへの目土も行いたいものである。
ちなみに、コース内の各所に砂が山盛になった土管をみることがあるが、これは目土の補給ステーションだ。何も書かれていないが、この土管は灰皿やゴミ箱ではない。ラウンド中に砂がなくなったら適宜補給しながら進んで行こう。
目土は誰がやるべきことか、ということについては、立場によって様々な解釈がある。あるゴルファーはキャディさんがやるものと思っているし、あるゴルファーはプレーヤーの責任として自分でやるべきだと思っている。あるゴルフ場はできる限りプレーヤー自身でやって欲しいと願っているが、違うコースではキャディさんが「私たちがやりますので大丈夫ですよ」という。何が正解なのかわからなくなることもあるはずだ。
筆者は“郷に入っては郷に従う”ことを基本にしている。自分がやってキャディさんが嬉しそうなら安心して積極的にやるし、「お客様にやっていただくと私が怒られますから」みたいな感じであれば、キャディさんにお任せしてその日はプレーに専念する。キャディさんのいないセルフプレーの場合はもちろん、最低限自分の作ったショット跡への処置は行うし、前の組のプレーを待っているような時には、目についた他のショット跡にも砂を入れることがある。うっかり目土バケツをショット地点に持っていくのを忘れるケースもあるが、その場合は目土を諦める。目土も大事だがプレーの進行を遅らせないことも欠かせない配慮だからだ。
美しいゴルフコースは、必ず“誰か”の処置によって保たれている。セルフプレーが当たり前になった今、ゴルファー自身もその一員であることを意識することはとても大切だ。ボールマークのないグリーン、足跡のないバンカー、凸凹のないフェアウェイ・ラフ。それはそのまま自分たちのプレーに跳ね返ってくる。
最後にひとつ。目土にかかる時間は数秒だ。スロープレーとなってしまう原因は他にある。
取材協力/太平洋クラブ八千代コース 写真/高梨祥明