ストロークの円弧にマッチしやすいパターヘッドの“クオーターハング”
全米オープンでジョン・ラームが勝ったことで、またショートスラントネックのマレットヘッドが注目されるだろうか。
ショートスラントネック(Short Slanted Neck)とは、短い傾斜したパターネックという意味だ。スラントネックはもともとピン アンサーパターのような“クランクネック”のパターを使いたいが、構えたときに「どうもクランク部の出っ張り(それが作る線)」が気になる! という声に応えて生み出されたもの。シャフトとヘッドの接合部をすっきりさせつつ、いかにヘッドを後ろにセットバックさせるかを考えて作られたものだ。
ちなみにアンサーで初めて採用された“クランクネック”は、単体では浅重心のブレードヘッドをシャフトの軸線よりも後方に設置することで、深重心パターと同じような慣性モーメント効果を生み出すという、ものすごい発明である。
クラシカルなピン アンサー2とアンサー4を比べてもらえれば、アンサー4のほうが接合部に出っ張りがなくすっきりしていることがわかるはず。スラントネックはヘッドをなるべく後方に設置しつつ、構えた時にフェースに集中したい! ネックの存在を感じたくない! というプレーヤーのニーズを満たすために生み出されたアイデアなのだ。
もう一つ、スラントネックによる影響としてはクランクネックに比べて、トウバランスになりやすいことが挙げられる。とくにショートスラントネックにした場合は、ネック重量がさらに軽減されるためトウ方向にヘッド重心が移動する。たとえばアンサー2とアンサー4は同じヘッド形状だが、ネック重量が軽いためアンサー4のほうが重心がフェースセンターに来ている。
そしてアンサー2のような長いクランクネックよりも低重心にしやすいというメリットもあるのだ。80年代にアンサー4を作ったカーステン・ソルハイムは、アンサー2よりも打点と重心が一致している分、着実に進化した! と思ったに違いないが、実際、グレッグ・ノーマン、タイガー・ウッズなどトッププレーヤーに使用されたのはアンサー2だった。
アンサー2はインパクトで狙ったラインに対してスクエアにフェースを戻すことができるが、アンサー4は少しだけ重心距離が長いため、フェースを開いてインパクトしやすかった。ノーマンやウッズのストローク・アーク(円弧)にはアンサー2の重心距離のほうがマッチしていたということである。
今、高慣性モーメントのマレットヘッドでショートスラントネックのモデルが増えているのも、ショートスラントネックにすることでトウ先が下を向く“トウバランス”になりやすいからだ。このほうが自然なストローク・アークにフェースの開閉がマッチするため、狙ったラインにボールを転がしやすいのである。
パターデザイン界のカリスマ、スコッティ・キャメロンもこの自然なストローク・アークに合った重心角を“クオーターハング”と呼んで大切にしている。
「パターにライ角度が付いている限りストロークは必ずアークを描きます。まっすぐ引いてまっすぐにヘッドを出すのは実際にはかなり難しいのです。だからこそパターヘッドもフェースバランスよりもややトウが下を向いて重心角が45度くらいになっているほうがストロークとシンクロしやすいのです」(キャメロン)
マレットパターヘッドも今どきの大型ドライバーとまったく同じで、狙った方向に対してインパクトでフェースがスクエアに戻せなければ、せっかく巨大化された慣性モーメント(芯を外してもフェース向きが変わらない)が活きてこない。フェースを戻しきれず、インパクトしても単純に右にまっすぐ転がっていきカップから遠ざかるだけなのだ。
パッティングでもっとも大切なのは、狙ったラインに対して正しくボールを乗せていくことである。そのためには各パターヘッドの重心角をチェックしてみていただきたい。フェースが真上を向くフェースバランスが合う人も当然いるだろう。トウが真下を向くヒールシャフト(L字など)のほうがフェースコントロールしやすいという人も実は多い。“クオーターハング”はその中間だ。
マレットヘッドにショートスラントネックが流行っているのは、“クオーターハング”によって、スクエアインパクトがしやすくなっているからだ。マレットだと右プッシュしがち!という人はショートスラントネック(クオーターハング)を試してみるといいだろう。
写真/高梨祥明