こんにちはケンジロウです。埼玉県の霞ケ関カンツリー倶楽部からお届けしております。
いやぁ、毎日暑いですねぇ。昨日は女子の競技初日でしたが、コース内にある熱中症指数が「32.5」の数値を記録していました。31以上の数値は危険区域で、「運動は原則中止」レベル。笹生優花のキャディもレクシー・トンプソンのキャディも熱中症でダウンしてしまいました。世界中から集まっている選手たちは、コースとの戦いのほかに暑さとも戦わねばならず、みんなとてもしんどそうです。唯一元気なのはセミぐらいですかね。うるさいぐらい毎日元気に鳴いていますよ。あ、あと、カラスも鳴いているか……。
さて、まだ少し男子のオリンピック競技の余韻が残る霞ケ関カンツリー倶楽部ですが、その男子のゴルフ競技は最後まで面白い展開でした。日本代表のエース、松山英樹が72ホール目までメダルをかけて争っていましたからね、みなさんもテレビの前から離れられなかったことだと思います。最終日は逃げるザンダー。シャウフェレを追いかける展開で、松山は何度もチャンスを作っていました。
ただ、初日、2日目と好調だったパッティングが最終日はなかなか入ってくれませんでした。後半の15、16、17、18番、バーディパットもパーパットもことごとくショートパットを外していました。
望遠のカメラで撮影していたのでカップ間際の転がりがよく見えたのですが、どれもボール一筋、読みが外れていたように感じました。どのパットも狙ったところに打てていて、ストロークは完璧なように見えましたけどね。そのうちのひとつでも入っていれば……。まさにメダルまであと一歩のところで届かなかったと言えるでしょう。
でも、そのあと一歩は何だったのか? 足りないものがあるとしたら何だったのか? 松山本人のコメントや丸山コーチのコメントを聞いていると、その足りないピースに“試合勘”という言葉が浮かんできました。
7月の頭、ロケットモーゲージでコロナにかかったあと、松山英樹は全英オープンの欠場も決まり、オリンピックの出場も危ぶまれていました。日本国内では、「松山英樹はオリンピックに間に合うのか」という声があちこちから聞こえていました。
ただ実際に私のところに入ってきた事前の情報では、松山はオリンピック男子競技の前週のPGAツアー「3Mオープン」に出場するかもしれないということ。それを聞いたときは、オリンピックに間に合うことを喜んだというよりは、その前の試合に彼が出ようとしていることに驚きを隠せませんでした。
オリンピック一週前の試合に出るとなると、試合が終わってから日本に帰国できるのは早くともオリンピックの週の火曜日ですからね。試合は木曜日からでしたから、もうぶっつけ本番に近い形で試合を戦うことになります。もちろんさらに時差ボケ問題もあります。
そうしたハンディを抱えたとしても、彼は試合に出たかった。何より“試合勘”というものを優先したかったのだと思います。試合に出ないままオリンピックに挑むよりは、1試合こなしてからメジャークラスのオリンピックに挑む、そのプランニングを考えていたのでしょう。でも、結局「3Mオープン」には出場がかなわず、日本に早めに帰国して霞ケ関CCで調整することになりました。
最終日が終わったあとのミックスゾーンでその試合勘について丸山コーチが話しています。
「プロゴルファーはその試合に標準を合わせてポンと出る人と徐々に調子を上げていくために2週間、3週間続けて試合に出てそこに合わせていく人といろんなタイプがあると思うんですが、まあ本人(松山英樹)の中ではコロナ明けで体力もない中、ひと試合でも軽く流せるような試合があっていろんなことを確かめてからここ(霞ケ関)に来られたら大きな違いだったのかなと。言い訳はしないかもしれないですが、第三者から見ていると、そこは本当は悔しかっただろうなぁと。ぽつんぽつんと『(試合を)1回やりたかったなぁ」と彼は言っていましたからね』(丸山茂樹)
なんとか練習日に調整を重ねてオリンピックに挑んだ松山は、4日間を通して尻上がりに調子が上げていきましたが、最後の最後でかみ合いそうになってきた歯車が崩れ、最終的にザンダーを追い抜くことができませんでした。やはり1試合でも試合をこなしてオリンピックに挑めたのであれば、結果は違ったものになっていたのではと思います。
最終日の試合後のミックスゾーンで、本人もその試合勘が足りなかったことについて言及しています。
「久々の試合ですし、優勝争いもなかなかしてなかったので、(パッティングに関して)新たなことをやり始めて、どういう反応するかなと思っていました。そこはある程度難しくなるとも思っていましたし、うまくいくかもしれないですし。逆にショットでチャンスを作らなければいけないとは思っていました」(松山)
銅メダル決定戦のプレーオフで敗退が決まり、グリーン上でマキロイやケーシーと握手して笑顔を見せる松山の表情はメダルを逃した口惜しさというよりは、どこか一週間を通して上の位置でやり切れたことへの安堵の表情に見えました。
コロナ明けの体力がない状態でしっかりとメダル争いを演じたのはさすが。日本代表のエースとしての役割は十分果たしたと思います。最後の最後までザンダーを追い詰めていた姿は、日本のファンの記憶に大きく残ったと思います。
マスターズと同じようにザンダーと優勝争いをするプレーを見ていてひとつ気になっていたことがありました。それは、「メジャーの優勝争いと今回のオリンピックの優勝争いどちらのほうが緊張感があったか」ということ。最後に松山にその質問をぶつけてみました。
「マスターズのときのほうが比にならないぐらい緊張していました。今回は自分の状態がそこまで期待できるものじゃなかったので、そういう意味でも楽にいけたんですけど、グリーン上だけかなりプレッシャー感じていましたね」(松山)
松山英樹はすでにアメリカに戻り、WGCセントジュードクラシックの試合会場で元気に練習ラウンドしています。このあとプレーオフシリーズも含めて8月は連戦が続きます。オリンピックで“試合勘”を取り戻した彼が今後の試合で優勝争いを演じてくるのは間違いないでしょう。
撮影/ケンジロウ