東京オリンピックの女子ゴルフ競技は世界ランク1位のネリー・コルダ(アメリカ)の金メダルで幕を下ろした。そのコルダを最後まで追い詰め、見事銀メダルを獲得した日本の稲見萌寧のプレーとその活躍の要因を、プロゴルファー・中村修が解説。

リディア・コとのプレーオフを制して銀メダルを獲得

東京オリンピックの女子ゴルフ競技が終わりました。最終日の17番ホールでトップをとらえ、金メダルに片手をかけた稲見萌寧選手でしたが、18番ホールで痛恨のボギー。ネリー・コルダ(アメリカ)が獲得した金メダルには1打手が届きませんでした。しかし、16アンダーで並んだリディア・コ(ニュージーランド)とのプレーオフの末、見事に銀メダルを獲得しました。

画像: リディア・コとの銀メダルをかけたプレーオフを制して日本初のゴルフ競技の銀メダルを獲得した稲見萌寧

リディア・コとの銀メダルをかけたプレーオフを制して日本初のゴルフ競技の銀メダルを獲得した稲見萌寧

稲見選手の4日間を振り返ってみると、初日こそ1アンダー16位タイのまずまずといった成績でしたが、2日目に6つスコアを伸ばして7アンダー7位タイに浮上すると、3日目も3つ伸ばして10アンダー3位タイとじわじわ順位を挙げ、最終日も最終盤まで伸ばし続けました。

そのプレーは、4日間を通じてアプローチとパットに冴えを見せました。ヘッドが等速で動き、ボールへのコンタクトが非常に安定しているアプローチでピンに寄せ、ゆっくりヘッドが動くのにゆるみがまったくないパッティングで仕留めるスタイルで、世界ランク1位のネリー・コルダや元世界ランク1位のリディア・コらを相手に互角の戦いを見せてくれました。

そもそも彼女が2021年に入って5勝を挙げるなど“覚醒”した背景にはこのアプローチ・パットの向上が挙げられます。今回キャディを務めた奥嶋誠昭コーチの元、パッティングの練習時間を増やして技術を磨き上げ、合うパターを見つけたこともあって一気に歯車が噛み合いました。

画像: 正確なショットでフェアフェイをとらえてスコアを伸ばし、最終日は9バーディ3ボギーの65でプレーし銀メダルに輝いた

正確なショットでフェアフェイをとらえてスコアを伸ばし、最終日は9バーディ3ボギーの65でプレーし銀メダルに輝いた

17番、ついにリーダーボードの頂点に立ったバーディパットは、クロスハンドグリップによりフォローが低く長く出て、ボールが一切よじれていませんでした。

最終組の前をプレーしたこともあるのでしょうが、最終組の3人に見られたようなピリピリするような緊張感が、少なくとも外からは見えませんでした。このあたりは、勝利を重ねることで勝つメンタルやスイッチの入れ方を理解したことも大きいと思います。日本ツアーで磨いた技術と築いた自信を、オリンピックの大舞台で見事に発揮していました。

技術的には十分に世界のトップレベルに通用する。そのことがわかりましたが、稲見選手はもともと“国内志向”。海外に挑戦するよりも国内で永久シードを獲得することを目標として公言しています。

しかし、今回の銀メダルという結果を受けてもしかしたら彼女の内心にも変化が起こるかもしれません。そして、もし彼女が海外メジャーを狙って獲りに行きたいと考えるならば、ポイントとなるのはやはり飛距離になると思います。

初日のプレー後に「海外に行くにしても行かないにしても、日本ツアーでも飛距離というのは大事になってくる。自分も飛距離を伸ばすことを考えたい」とコメントしていましたが、世界ランク上位選手と日本でプレーしたことで、肌感覚で飛距離の差は感じたと思います。

最終日の平均飛距離を見ると、金メダルのネリー・コルダが258.3ヤード、プレーオフを戦ったリディア・コが251.9ヤード。稲見選手は236.2ヤードでしたから、15〜20ヤードほどの差があったことになります。今後は、奥嶋コーチと飛距離アップに取り組んでいくのかもしれません。

渋野日向子選手の全英女子オープン制覇から約2年、今年は全米女子オープンでの畑岡選手と、今回はフィリピン代表としてオリンピックに出場した笹生優花選手の日本勢同士でのプレーオフもありました。

そして東京オリンピックでの稲見選手の大活躍。日本の女子ゴルフは、一気に世界のトップレベルにまで到達した感があります。「世界との距離」がまたひとつ縮まった。そう感じた人はきっと多かったと思いますし、彼女より下の世代はさらに積極的に海外に進出していくことになるかもしれません。

最後に、猛暑のなかメダルをつかんだ稲見選手、奥嶋コーチ兼キャディに心からの拍手を送りたいと思います。もちろん金メダルが欲しかったと思いますが、素晴らしい銀メダルでした。

画像: メダル獲得を目指して奮闘したが10アンダー9位タイで終えた畑岡奈紗

メダル獲得を目指して奮闘したが10アンダー9位タイで終えた畑岡奈紗

そして畑岡奈紗選手は、最終日に2つスコア伸ばして通算10アンダー、9位タイでのフィニッシュとなりました。惜しくもメダルには手が届きませんでしたが、初日、2日目とスウィングがしっかり来ず、修正しながらというなかでの上位進出はさすがの一言。引き続き、日本のエースとして大活躍してくれることでしょう。

撮影/服部謙二郎

This article is a sponsored article by
''.