PGAツアー「WGC・フェデックス・セントジュードインビテーショナル」を制し初優勝を手にしたエイブラハム・アンサー。そんなアンサーの人となりを、海外ツアー取材歴20年の大泉英子がレポート。

「オリンピック男子ゴルフ」の翌週に行われた「WGC・フェデックス・セントジュードインビテーショナル」は最終日、松山英樹やサム・バーンズの猛追もあり、優勝争いは大混戦。

松山英樹、サム・バーンズの2人が16アンダーでホールアウトした後は、ハリス・イングリッシュ、エイブラハム・アンサー、キャメロン・スミスらが2人のスコアを上回る17アンダーをマークしようと熱戦が繰り広げられたが、結果的には松山英樹、サム・バーンズ、エイブラハム・アンサーの3人がプレーオフに進出。プレーオフ2ホール目で、バーディを奪取したエイブラハム・アンサーが世界ゴルフ選手権でツアー初優勝を飾った。

これによりフェデックスカップランキングでは6位に浮上。世界ランキングでは10位に浮上するものと見られている。

画像: PGAツアー「WGC・フェデックス・セントジュードインビテーショナル」を制したエイブラハム・アンサー(写真/Getty Images)

PGAツアー「WGC・フェデックス・セントジュードインビテーショナル」を制したエイブラハム・アンサー(写真/Getty Images)

「本当に信じられない。子供の頃から取り組んできたゴルフで優勝できたんだから。PGAツアーで優勝できて夢がかなったよ。しかもWGCのような大舞台で優勝できたんだから本当に最高だ。バック9はまるでサバイバルゲームみたいだったね」

風が舞い、ピン位置は非常に難しく、トリッキーなラウンドだったとアンサー。そんな状況下でも、自分自身を変えることなく、ひたすら我慢強く、心静かにプレーした。過去、何度も優勝争いに絡みながら、なかなか優勝できなかったが、積み重ねてきた過去の経験や教訓を生かし、ようやく今大会で開花。

2019年「プレジデンツカップ」に世界選抜チームの一員として初出場を果たした彼だが、同大会以降、キャメロン・スミスやイム・ソンジェ(以上2名はツアー初優勝)、マーク・リーシュマン、アダム・スコット、松山英樹など優勝を飾る世界選抜チームの選手も多かった。アンサーも「優勝は、時間の問題」と見られていた1人。そんな彼がようやくWGCという大舞台で優勝トロフィを手にすることができたのだった。

「今こそ優勝を掴み取る時だと思った。バーディを獲り、このトーナメントで優勝するときだ、とラウンド中、自分に何度も言い聞かせたんだ。時々自分の思い通りにいかない時もあったけど、今回は優勝を逃しちゃダメだと自分自身に言い続けたんだ。今回の優勝で、メキシコの子供達がゴルフをするきっかけになり、ゴルフというゲームが発展するといいね」

彼は米国テキサス州と国境近くのメキシコのレイノサで育ち、米国・オクラホマ大学ゴルフ部に在籍していたこともあるメキシコ人。前週はメキシコ代表として「オリンピック」にも出場し、14位タイに入賞。昨年、「ビビント・ヒューストンオープン」で優勝したカルロス・オルティスも、アンサーと同様に出場しており、最終日は78を叩いたものの、3日目までは上位で優勝争いを展開していた。

オリンピックでメキシコのゴルフのレベルの高さをアピールし、準メジャー級の今大会でアンサーが優勝することでさらにメキシコのゴルフをアピール。かつて、女子世界ランク1位だったロレーナ・オチョアも自身のSNSでオリンピックでの彼らの活躍と、アンサーの優勝を祝福した。そしておそらくは天国で見守っていた父も、息子の初優勝を心から祝福しているに違いない。

「父がここにいて、一緒にお祝いしてくれたらよかったね……父は金銭に苦しんでいる時も僕のためになんでもやってくれた。僕がどんなゴルフをしても文句も言わずになんとかしてゴルフをさせてくれたんだ。どんなスコアを出そうと、僕を試合に連れていってくれた。今になってそれにかかる経費がどのくらいなのか、などということがわかるようになったけど、父は僕がもっと上手くなるためのチャンスをなんとかして見つけ出してくれた。レイノサ(メキシコ)で生まれ育ち、PGAツアーに参戦するなんてたやすいことではない。そのチャンスは非常に限られている。今回の優勝は父にすべてを捧げたい。今日も父がずっとそばについて応援してくれていたように思う」

彼の父アブラハムは、2014年に他界。生活費を稼ぐのに苦労しながらも、家族の生活を守りながら、息子にゴルフを続けさせた。今回の優勝は、父と息子のゴルフに対する情熱と努力の結晶。1勝を挙げたが、30歳の彼にはまだまだスタート地点に過ぎない。彼には輝かしい将来が待っているはずだ。

サッカー人気が高く、ゴルフは富裕層のスポーツというメキシコでは、メキシコ国民(特に子供たち)へのゴルフの普及はまだまだ進んでいない。タイガー・ウッズをはじめ、世界有数のゴルフ場設計家たちによるワールドクラスのゴルフリゾートがロスカボスなどに近年、作られるようになったが、これらは主に海外からの観光客相手のものである。アンサーの優勝でゴルフに目を向ける子供たちが増え、アンサーチルドレンたちが互いに凌ぎを削り、将来のオリンピアン、PGAツアー優勝者となる日もそう遠くはないかもしれない。

 

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