「彼女はすごいよ。人生でもゴルフでも勝てない」
出会いは14歳のとき。早くに母を亡くした孤独な少年はある日突然恋に落ちる。兄と一緒に歩いていたとき生垣の向こうにいた少女を見て「ボク、彼女と結婚するよ」と宣言したのだ。兄は弟が完全にイカれていると相手にしなかった。
しかし少年は1年後、15歳で果敢にプロポーズ、21歳でプロ初優勝し手にした賞金を携えゴールイン。6人の子供に恵まれ、いまでは22人の孫とひ孫が2人の大家族となった。
貧しかったプレーヤーにゴルフの手ほどきをしたのがビビアンさんの父。週に1度のレッスンは彼にとって彼女に会える特別な時間だった。
「南アからアメリカに渡るのに4回(飛行機を)乗り継ぎ40時間かかった時代にビビアンは6人の子供を連れて文句ひとついわず一緒に旅をし、支えてくれた。彼女がいなかったら私がこの壮大な夢を叶えることはできなかった」
だから御大にインタビューをさせてもらうと毎回必ずビビアンさんの話題がでた。
「ある試合で優勝したとき“このドライバーのおかげで勝てた。妻よりも素晴らしい”と記者に話したんだ。で、帰宅したら妻がいない。寝室に行くとネグリジェをまとったドライバーがベッドの上に置かれ“私より良いのならどうぞドライバーと寝てください”というメッセージがあったんだ」といかにも愉快そうに破顔一笑すると「彼女はすごいよ。人生でもゴルフでも勝てない。だってビビアンは1日2回ホールインワンしたツワモノだからね」と真剣な眼差しで語ったもの。
世界中を飛び回りゴルフ大使の役割を果たすプレーヤーとビビアンさんはチャリティイベントを各地で行いこれまで6200万ドル(約70億円)もの寄付を集めているが、その基金は南アの恵まれない子供に教育を与えることに使われており、ビビアンさんが少年少女たちのための学校を運営していた。
「一度南アに来なさい。子供たちの輝く瞳を見たらキミはきっと泣いてしまうよ」といわれたことがある。ビビアンさんの存命中にそれを叶えることができなかったのが残念で仕方ない。
20年以上前のこと、夫の応援に来日したビビアンさんとコースを歩きながら四方山話をしたことがある。そのとき彼女が漏らしたこんな言葉が印象に残っている。
「指は10本しかないし全部に指輪を嵌めるわけじゃないわよね。指輪なんて1つあれば十分。お金にはそれより大切な使い道があるの」
桜のつぼみが膨らみはじめた3月のことだった。「(4月の)マスターズでテレビに映ったらあなたに手を振るわね」といったビビアンさんの笑顔が忘れられない。
レジェンドの心のよりどころであり、多くの人に深い感銘を与えたビビアンさんを惜しむ声は後を絶たない。
どうか安らかに、そして最愛の夫を今度は天国から支え、見守ってください。ご冥福をお祈りします。