遠くに飛ばしたいか、カップ付近に止めたいか。はっきり分かれるアイアンニーズがある
アイアンが多品種化している要因の一つに、不変ともいえるカテゴリーの存在がある。一般的には“マッスルバック”といわれることが多いが、ヘッドサイズがコンパクトでトップブレードが薄い「ブレードアイアン」が今なお、PGAツアーを中心に使い続けられているからだ。ドライバーでいうならば、パーシモン(木製)やステンレスメタルが支持され続けているようなもの。460ccドライバーとパーシモンドライバーの新作が店頭に並んでいると思えば、アイアンの特異性を感じていただけるのではないだろうか。
さて、ではなぜパーシモン級のオールドスタイルモデルが現在のトッププレーヤーに支持され続けているのだろうか。そこにはもちろん我々一般アマチュアとは違うニーズの存在がある。まず、アスリートにとってアイアンは、遠くへ飛ばしたいクラブではない。狙った距離を打ち、カップ近くにボールを止められるクラブであることが重要視される。7番アイアンで200ヤード飛ぶアイアンは最高! とはならないのだ。
ゴルフクラブには、大きく分けて2種類がある。1.より遠くに飛ばしたい! を叶えるモデルと、2.狙った距離を打ち、止めることができるモデルの2種類だ。
ドライバーのパーシモンモデルが消えてしまったのは、ドライバーがプロ、アマを問わず1の「より遠くに飛ばしたい!」クラブであるからだ。だからこそ、今現在、飛び性能を追求していないドライバーは存在していない。むしろ、その飛びを狙った方向に発揮させるための新たなコツ(スウィング法)や調整法(カチャカチャ機能)が必要になっているくらいである。
アイアンの場合は1と2、両方のニーズがはっきりと分かれている。そして、その中間である3.そこそこ飛んで、そこそこ狙える! を叶えるモデルへの期待感がもっとも大きい。だからこそ、これだけ多くのアイアンモデルが各ブランドから登場しているのである。
誰にでも飛ばしたい番手と飛ばさなくていい番手があるはず。それを明確にすることがアイアン選びの出発点
アイアンの購入を考えているならば、必ず、自分が1、2、3いずれのアイアンを欲しているのかをハッキリさせておくことが重要だ。人気があるからと想定以上にボールが飛んでしまうアイアンを購入し、「こんなクラブでは100ヤード打つ番手がない」などと後悔するのは非常にもったいない。逆にトッププロと同じアイアンにした結果、「全然、飛ばない!」となってもやはり残念である。
“誰が”ではなく、“自分”が望む結果が出せてこその買い替えだろう。
自分はアイアンを飛ばしたいのか、狙いたいのかと考えていくと「気づく」ことがあるだろう。それはアイアンには“飛ばしたい番手”と“飛ばさなくていい番手”があるということだ。一人のゴルファーの中にショートアイアン、ミドルアイアン、ロングアイアン、それぞれに違う“ニーズ”がある。それがドライバーと違うところである。
“ニーズ”という言葉を“不足・不満”と置き換えてもよいかもしれない。アイアンセットの中で“不足・不満”を感じるのは何番なのか? と考えてみることである。基本的には不足を感じない番手については、買い替える必要がない。そう思えばいいのである。
PGAプレーヤーの多くは、ショートアイアン〜ミドルアイアンは「ブレードアイアン」にしているが、ロングアイアン(#3〜#5)になると別のモデルをコンビネーションする。変化が必要ではない番手は替えず、必要な番手のみ進化を取り入れているのだ。
全番手において飛距離の出るアイアンが欲しいのか、ロングアイアンだけをやさしく飛ばしたいのかでは、その解決方法が大きく変わってくる。番手ごとの自己採点をしっかりとし、不足がない番手は替える必要なしと決めることで、ようやく買い替えるべきアイアンが見えてくるのである。その結果、自分に必要だったのはアイアンの買い替えではなく、ユーティリティクラブやショートウッドへの置き換え、あるいはウェッジの追加だったことに気づく場合も多いだろう。
撮影/高梨祥明
※2021年10月15日18時43分 文章を一部修正いたしました