PGAツアー平均を軽く上回る飛距離を持つ
数年前から、ツアー会場で中島啓太選手のスウィングを何度も間近で見てきました。プロの試合に出始めた当初は体も細く、スウィングの強度に体の成長が追いついていないような印象を受けたこともありましたが、最近は見るたびに体が分厚くなってきています。
トーナメント期間中も毎日継続するトレーニングによって柔軟性を保ったままの体づくりが進んだことで、飛距離はもちろん、安定性も大幅に向上しています。
今年6月の「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills」の練習日に、中島選手の弾道をトラックマンで計測したデータを見せてもらったことがあります。写真Aがその画像ですが、ヘッドスピードは53.5m/s、ボール初速は79.2m/sを計測しています。
このヘッドスピードは、PGAツアーの昨年のヘッドスピードランキングに当てはめると25位に相当する数字です。あくまで参考値に過ぎませんが、現時点でPGAツアーの平均を上回るほどの飛距離は大きな魅力です。
それでいてマン振りしているわけではなく、中継をご覧になった方はおわかりのとおり、フェアウェイの幅に収める力感のないスウィングをしながらあれだけの飛距離が出せています。そのスウィングを見ていきましょう。
画像Aはアドレスとトップ。アドレスでのバランスの良さは見ての通り。トップでも変な軸の傾きもなく、前傾はキープされ、手元もフラットでもアップライトでもないすごくナチュラルなポジションに収まっています。自分の体に合うスウィングが磨き上げられています。
画像Bの切り返しからインパクトを見ると、回転力を非常に多く使ってスウィングしていることがわかります。体を思い切ってターゲット方向にまで回し込んでいるスウィングは、まるで野球のホームランバッターのようにダイナミックに見えます。
私がゴルフを覚えた昭和の時代は、ダウンスウィングでは体を開かず、左サイドに壁を作って腕を振り、手元を低い位置にキープしてヘッドを走らせろと教わりました。中島選手のインパクトをご覧ください。すべて逆です(笑)。
野球のホームランバッターと形容しましたが、シンプルにもっとも力の出せるポジションでインパクトを迎えています。後述しますが、これが現代のパワーゲームとクラブに合った世界基準のスウィングです。
画像Cはフォロースルー。とくにインパクト直後の画像C左を見ると、フェース面がほとんど返っていないことがわかります。まるでパットのフォローのようにスクェアな状態がキープされていますよね。
少し見にくいですが、左右の上腕の間隔もインパクトから大きく変わっていません。プロがよく、左右の上腕でボールを挟んで打つドリルを行なっていますが、中島選手のスウィングはまるで見えないボールを挟んで打っているかのようです。やってみるとわかりますが、左右の上腕でボールを挟んでスウィングすると、フェースローテーションは使いにくくなります。
このようにフェースローテーションを抑えたスウィングは、よく言われるように慣性モーメントの大きい現代の大型ヘッドと相性が良く、ドライバーショットの方向性を保ちます。その上で、体を鍛えて出力を上げ、それによって飛ばしているのです。世界標準というか、そのようなスウィングを中島選手はしています。慣性モーメントの小さいヘッドを体を止めて走らせ、球をつかまえて飛ばしていたのがかつてのスウィングとは大きく異なります。昭和は遠くなりにけり、です。昔はトレーニングはゴルフに良くないとまで言われていましたからね。
フェースローテーションを抑え、回転力重視の中島選手のスウィングは、体の回転とヘッドスピードが比例しやすく、アイアンでの距離感が出しやすいスウィングでもあります。バックスウィングとフォローでの振り幅がきれいに揃うアイアンショットの切れ味も見事でした。
これから世界に挑むというよりも、すでに世界に挑んでおり、そのなかで結果も出している中島選手。今後どこまで成長していくのかはかりしれないスケール感の持ち主です。その成長と歩みを、今後とも楽しみに注目していきたいですね。