シャフトの銘柄や重量が変われば硬さの感じ方も違う
ゴルフクラブには人それぞれ、“マジックナンバー”のようなものがあるようだ。私は取材で新製品を打ってもらうとき、なるべくロフトやシャフトの硬さを伝えずに渡すようにしている。なぜならロフト○度、硬度Sと聞いただけで、人によってはうまく打てなくなってしまうからだ。
普段使っているクラブよりロフトが小さければ“上がらないかも”、SRシャフトを使っている人なら“Sでは硬いかも”と思ってしまいがち。そしてそう思った瞬間からボールが上がらなくなってしまったり、振り切れなくなってしまうことがあるのだ。逆も然りで、アンダースペックだと思った直後から、打球が乱れたりする。どちらも数字や記号を知らないときは気持ちよく打っていたのに、である。
もちろん、ロフトは数字が少ないほうが球が上がりにくいし、シャフト硬度表示もR→SR→S→Xの順に硬くなる。普段、Rシャフトの人がSを渡されたら「キツイんじゃないかな」と思って当然だ。しかし、それはあくまでも同一モデルの中での話である。モデルが変わればその限りではない。世の中には、軟らかいSも超硬いSも存在するのである。
この記事はゴルフを始めたばかりの方を対象に書いているので、あえて具体例を挙げるが、たとえば同じダンロップのドライバーでも、スリクソンブランド(アスリート向け)のSシャフトと、ゼクシオブランド(一般向け)のSシャフトではスリクソンのSのほうが硬めに仕上がっている。スリクソンのRのほうが重たいし、ゼクシオのSよりも硬いことだって珍しくないのだ。
同じSなのに硬さが違うなんてわかりにくい! と思うかもしれないが、そもそもロフトや硬さは、同じモデルの中でもう少し上がりやすいヘッドは? もっと硬いシャフトはある? と思ったときに比較しやすくするためのもの。同じスリクソンZX5の中なら、ロフトは小さいほうが打ち出しは低くなるし、RよりSのほうが確実に硬いので目安になる。
でも、スリクソンの中だってモデルやシャフト銘柄が違えば、横並び比較はしないほうがいい。数字、記号を単純に比べていいのはあくまでも同一のヘッド銘柄とシャフト銘柄の場合のみである。シャフトの場合は重量設定が違えば同じ銘柄でも硬さが変わる。60グラム台のSと40グラム台のSなら後者のほうが軟らかく感じる場合が多い。シャフトは重さが変われば“別モデル”と考えていたほうがいいだろう。
上級者によくある“シャフトしばり”もこだわり過ぎれば、迷宮の始まりに!
数字ということであれば、アイアンの番手表記もそうである。ご存知の通り、「7」と書いてあってもボールを飛ばせる距離はモデルによって違う。それは同じ「7」でもモデルによって「ロフト」が違うからだ。もっといえば、同じ「ロフト」であってもモデルが違えば、重心設計やフェースの特性によって高く上がったり、初速が速くなったりする。そして、飛ばせる距離が違ってくる。どこまでいっても、単純な数字の横並び比較ではクラブの特性は見えてこないのである。
SがSではないことがあり、上がる9度と上がりにくい9度があると聞けば、多くの人が“わかりにくい”、“不親切”と感じるかもしれないが、ゴルフクラブの特徴はそもそも自分で打ってみなければわからないもの。「自分はいつも10.5度のSRだから同じ感じで」という選び方で最適にたどり着くほど単純ではないのだ。
クラブを試打するときに気にしたいのは、「数字」ではなく実際の弾道である。自分が思った方向に、気持ちいい高さでボールを打ち出せるか? それができればロフトが何度だろうが、シャフトの記号が何だろうと関係ない。結果に不足があれば、数字を見てその前後のスペックを試してみればいいのである。
同じシャフトでもヘッドの重さや重心設計が違えば、スウィング中のしなりや振り心地が変わってくる。よくいう“シャフトしばり(自分にはこのシャフトが合っていると信じ、ヘッドが変わっても同じシャフトにすること)”も、こだわり過ぎれば迷宮の入口となりかねない。違うクラブを試すときは先入観をなるべく持たず、構えやすさや振りやすさ、弾道、フィーリングなど、自分で「感じた」ことを優先させたい。そして、今使っているドライバーはSRだけど、このクラブなら俺はSでいいのか、と思うことが大事である。