今季女子ツアーにTP単年登録の資格で初のフル参戦を果たした高木優奈。ツアーで通用する実力を持ちながらも、先週開催されたプロテストでは不合格。来季の出場権喪失の崖っぷちに立たされている。女子ツアーの制度変更に伴う“新たな問題”を、トレンドウォッチャー・コヤマカズヒロが考えた。

コロナ禍の影響で、異例の年間2回のプロテストが行われた2021年。難関を突破して喜ぶ選手もいれば、悔し涙を流す選手もいて、今年もまた多くのドラマが生まれた。いろいろと思うところはあるのだが、個人的な意見を敢えてひとつ言うとしたら、高木優奈は特例で合格を認めても良いのではないだろうか。

高木優奈は1999年生まれのいわゆる黄金世代。17〜19年のプロテストは最終まで残りながら、いずれも不合格だったが、18年のQT(予選会)の成績で翌年のステップ・アップ・ツアーに参戦し、「ANA PRINCESS CUP」で優勝した(※同年賞金ランキング14位)。

画像: プロテスト未合格ながら、ツアーで存在感を見せる高木優奈

プロテスト未合格ながら、ツアーで存在感を見せる高木優奈

その優勝インタビューでは、「今年のいちばんの目標は、プロテストに合格すること」とコメントしている。若手からベテランまで、多くのプロが腕を磨く舞台で優勝した選手の目標がプロテスト合格であることが、なんとも奇異に感じられたものだ。

2020-2021シーズンは、TP単年登録の資格でレギュラーツアーにフル参戦している。賞金ランキングは現在60位(※TOTOジャパンクラシック終了時)で、獲得賞金は2673万5,425円だ。例年ならシード権確定の額なのだが、2シーズンにまたがった今季はボーダーラインがぐっと上がっている。

高木は、出場できる試合が残り3試合というところで、そのうちのひとつである「TOTOジャパンクラシック」をスキップし、最終プロテストに出場。優勝かシードが取れれば、プロテストが免除になるので、高木としては1試合でも多くレギュラーツアーの試合に出場したいところだったろう。リスクを負って受験した最終プロテストだったが、結果は1打差で不合格だった。

よく知られているように、来季からはTP単年登録の資格が消滅し、QTにエントリーできるのはJLPGA正会員のみとなる。制度変更の是非はともかく、もしこのまま優勝やシード権の確保ができなければ、高木はJLPGAの試合に出る資格を喪失してしまうことになる。

以前は、実力のある選手がTP単年登録の資格でQTを突破し、ツアーに参戦したケースが少なくない。その中からツアー優勝を果たしプロテストが免除になった選手もいるが、一時期このルールがなくなり、12年にツアー初優勝した成田美寿々が、翌年のプロテストを受験した事例もある(※結果は合格)。

現在、トップ選手として活躍する原英莉花は、17年のプロテストで不合格となったものの翌年はTP単年登録でステップ・アップ・ツアーに参戦し2戦2勝。レギュラーツアーへの出場権をつかみ、同年のプロテスト合格に結びつけた。原のケースのように、プロテスト未合格者が、試合で経験を積むということが今後はかなり難しくなることが確実だ。

画像: 来季からはTP単年登録の資格がなくなるため、原英莉花のようにステップ・アップ・ツアーで経験を積んでプロテストに合格する、という筋道が現実的でなくなる

来季からはTP単年登録の資格がなくなるため、原英莉花のようにステップ・アップ・ツアーで経験を積んでプロテストに合格する、という筋道が現実的でなくなる

そもそも近年は女子選手のレベルが上っており、最終プロテストの20位タイという枠は厳しいという声も少なくない。しかし、そんな狭き門の中でも有力選手はしっかりと勝ち上がっているし、より厳しいテストをくぐり抜けた選手たちは、大きな自信を手に入れるだろう。枠を広げたり、特例を認める議論は、ややもすると合格を勝ち取った彼女たちへのリスペクトを欠くことになりかねない。

しかし、高木の場合は、ステップ・アップ・ツアー優勝、レギュラーツアーでは現在賞金ランキング60位、プロテストは1打差で不合格など、実力的には明らかにプロとして十分なものがあるといっていい。野球にたとえると、打率、ホームラン、打点、盗塁とすべての部門で好成績をあげながら、タイトルに縁がない選手のようで、ひとつ突き抜ければ良いのだが、そう上手くはいかないものだ。

ピーキングの観点からいうと、プロテストに集中したほうが、合格確率が上がることは明らかだ。初めてのフル参戦となるレギュラーツアーで、ペースに慣れつつ、リランキングを気にしながら、シード権や優勝を狙うことと両立するのが簡単ではないことは用意に想像がつくだろう。レギュラーツアーで活躍できる選手が、プロテストにもエネルギーを割かなければならない状況はあまりヘルシーとは言えまい。

筆者が特例を認めては良いのでは、と考える根拠は、高木が今シーズン初めてのレギュラーツアーフル参戦ながら、2600万円以上稼いでいることだ。これはJLPGAの生涯獲得賞金で、全体の401位に相当する。1200人弱のJLPGA会員の半分以上が、高木の1シーズンの獲得賞金に届いていないのである。

プロテストに合格しても、レギュラーツアーの高い壁に阻まれて、ほとんど賞金を稼げないプロは少なくないのだ。それだけ厳しいツアーの世界で、高木は年々成績が向上していて、まさに進境著しい状況だ。ツアーフル参戦初年度から成績を出すのは簡単なことではない。仮にシード落ちし、ここで試合に出る権利を奪われてしまうのは、なんとももったいない話ではないだろうか。

まだ若く、来年、再来年のプロテストあたりで合格する可能性は低くない。ただそれは、明らかにプロゴルファーとしての実力を備えている高木が加わることで、プロテストの貴重なひと枠が失われる可能性もあるのだ。

JLPGAも本音ではすんなりプロテストに合格してほしかったのではないだろうか。制度変更の狭間で生まれたバグと言えなくもないが、微妙かつややこしいケースになってしまったと思う。稲見萌寧や笹生優花、西郷真央が1打差でからくも合格だった例をあげるまでもなく、プロテストとは、その時の些細な風向きでその選手の人生の行く先を大きく左右してしまう。

現在のプロテストでは、レギュラーツアーにフル参戦した経験を持つ選手やステップ・アップ・ツアー4勝のヌック・スカパンなど、実力がありながら不合格になっている選手が少なくない。それだけ厳しい世界ということなのだろうが、それでも高木の場合は、その中でも事情が違うと思うのだがどうだろうか。少なくとも過去のプロテスト不合格者で、これだけ賞金を稼いでいる選手はほとんどいないのである。

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