コース設計の手段のひとつとして、グリーンの横幅が奥行より長く、ティーイングエリアからフェアウェイを対角線にとらえるレイアウト、これをレダンと呼びます。これはプレーヤーの飛距離に対抗するもので、戦略性を高めるアイデアだといえます。
直線より斜めのほうが距離感をつかみにくいことから生み出されたもので、分かりやすい例としては、毎年4月に開催されるマスターズのコース、オーガスタナショナルGCの12番でしょう。
この12番ホールの距離はわずか155ヤードしかありません。マスターズに出場する選手ならピッチングウェッジか9番アイアン、アマチュアなら7~8番アイアンでしょう。距離的には決して難しいと思われませんが、実際には多くの選手がグリーン手前を流れる「レイズクリーク」に打ち込んでいます。1980年、トム・ワイスコフは1打目をクリークに落としてしまい、ドロップエリアからの打ち直しも次々と入れてしまいました。
12番ホールのスコアはなんとマスターズでの1ホール最多打数記録の13でした。記憶に新しいところでは2020年、タイガー・ウッズがやはりクリークに打ち込んでしまい、ドロップエリアからの打ち直しも再度クリークに落としてしまい8オン2パットの10打となっています。
距離的には決して難しくないはずなのに、名手たちがミスをしてしまう原因はこのホールのデザインにあります。その理由は、上空に想定以上の風が吹いていることが多く、単に距離だけではクラブ選択を誤るからです。しかも、グリーンの手前にはクリークが流れ、グリーンの幅は10ヤード、自分がプレーした時に歩測したところ、もっとも幅の狭いところは僅か6~7ヤードだった記憶があります。
では、大きめの番手で打てば問題はない、と思われますがここに罠があります。それはグリーン奥に余裕がなく、グリーンの形状がティーイングエリアに対して右斜めに伸びていて、左手前がもっとも距離が短く、右に行くほど距離が長くなるからです。加えて手前にはクリークが流れ、グリーンの中央奥と手前部分にはバンカーがあることから視覚的に錯覚をしやすい構造になっているからです。
かつて帝王ジャック・ニクラスは「風がなければ9番アイアン、風があれば5番アイアンで打つことになる」と語っています。
オーガスタナショナルGCを設計したのは、スコットランド出身のアリスター・マッケンジーです。ゴルフコースの原点はリンクスにあると考えていたマッケンジーは、オーガスタナショナルGCをインランドリンクスとしてとらえ設計し、12番ホールもその例といえます。
ではこのようなデザインはどこから来たものでしょうか。スコットランドにノースベリックGCがあります。設計したのは、一時マッケンジーと共同経営者だったハリー・コルトです。コルトはコース設計をビジネスにした最初の職業コース設計家でもあり、近代化土木技術を導入した設計家です。ノースベリックGCの15番ホールは最大で189ヤードのパー3です。ティーイングエリアからグリーンを見ると、左手前にバンカーがあり、グリーンは左方向に斜めに伸びていることから距離の判断を誤ることになります。そしてリンクス特有の起伏と海風が加わりますのでその難易度はかなり高まるわけです。
実際には、手前に見えるバンカーとグリーンは隣接していなく少し距離がありますが、ティーイングエリアから見るとバンカーのすぐ後ろにグリーンがるように見え、とくにピンがグリーン左奥にある場合には間違いなく距離の判断を誤ることになります。
レダンデザインは、パー3ホールだけではなく、パー4やパー5のホールでの2打目、3打目にも多く使われています。人間の錯覚を巧みに利用したもので、世界中でもっとも多く使われているホールデザインです。