プロキャディに2021年を振り返ってもらう年末年始企画。その第3弾はプロキャディとして通算35勝を誇る”シンさん”こと森本真祐キャディ。21年の印象に残った試合を振り返ったインタビューをお届け。
森本真祐キャディは1996年から桑原克典の帯同キャディとしてキャリアを始め、谷口徹、アン・ソンジュのキャディとして男女賞金王の二冠を達成する名キャディのひとり。その森本キャディに21年を振り返ってもらうと、印象に残ったのはタッグを組んで2勝を挙げた古江彩佳と戦った「富士通レディース」だという。悪天候により最終ラウンドは中止になり、首位で並んでいた勝みなみとふたりきりでの3ホールのプレーオフで決着をつけることになっていた。
ビビり回数とドヤ顔回数をポイント制にして数えていた
「口には出しませんでしたが、土砂降りの雨の中で飛距離の出る勝みなみ選手とのプレーオフは不利だと思っていました。プレーオフの16番からの3ホールは攻められるようなホールではなかったのですが、17番パー3でアゲンストの中ピン2メートルにつけたショットは21年の中でベストショットだったと思います」
187ヤード(実測182ヤード)の17番パー3は、アゲンストと寒さに加えて雨、そしてバンカー越えの奥32ヤード右から5ヤードに切られたピン位置と、かなり難易度の高いホールになっていた。先に打った勝みなみが4UTでピン左の安全なエリアに乗せると、古江がグリーン右エッジ方向に打ち出したボールはピン手前に落ち、ピンの横2メートルについた。これを決めて一歩リード、優勝に近づいたショットだった。
じつはこの17番でピンを攻め優勝を手繰り寄せたショットには初日からの伏線があったと森本キャディ。ピンを攻めるつもりで放ったショットが広いほうの安全なエリアに飛んでしまうことを「ビビった」とし、その回数を数えていたというのだ。
「初日からビビり回数、どや顔回数を数えて正の字を書いてつけていました。ショットの調子も上がってきていたので最後は気持ち、ビビりながらでもピンを狙って打てるように遊び感覚でやっていました」
初日は7アンダー(2位タイ)で終えていながら5回のビビりポイントがあったといい、ショット力もショートゲームもズバ抜けている古江ですら、ピンを狙って打つ怖さと戦っていることを物語っている。その恐怖を乗り越えピンを攻めたその先にこそ優勝が待っているということなのだろう。アマチュア時代にも優勝しホステス大会でもある「富士通レディース」で優勝したことを機に、翌週の「マスターズGCレディース」で2週連続優勝を果たし、3位タイを挟んで「TOTOジャパンクラシック」でも優勝、最大で7千万円以上あったランク1位の稲見萌寧との差を一気に約400万円差まで詰め寄る大躍進を遂げた。
春先は調子が上がらず、東京オリンピック代表争いにも敗れていた古江だがエビアン選手権で4位、全英女子オープンで20位と自ら海外へ出て自信を取り戻してきていた。そんな古江の強さを森本キャディは基本的に緊張しないしビビらないタイプ、上位に行くほど集中力が増すという。米女子ツアーの予選会では8ラウンドをオーバーパーなしで回り出場権を確保したことにも触れ、来季の活躍に太鼓判を押す。
「古江選手のプレースタイルに合うコースと合わないコースがはっきりしていると思います。池が多くて空中戦になるようなコースは苦戦するでしょうし、距離が短かったり花道が使えたりバーディ合戦になるコースはチャンスがあると思います。日本と違ってコースの特徴にメリハリのある米女子ツアーでは全試合に出場せずプレースタイルに合ったコースを選んで出場すれば結果を出してくれると思います」
男子ツアーでも3試合、キャディを務めた森本キャディ。池村寛世、石坂友宏、片岡尚之、中島啓太など元気のいい若い選手がシード入入りし実力をつけてきているという。とくにAbemaTVツアー3勝しレギュラーツアーに昇格しシード権も確保した久常涼の魅力が印象に残ったという。
「もちろん高卒ルーキーでまだ粗削りなところはありますが、飛距離の出るドライバー、パターも上手いし攻めるゴルフも魅力的です。ウェッジのスピンコントロールやミドルアイアン以上のクラブの精度など伸びしろはたくさんあります。来季は楽しみな選手になりそうです」
ベテラン、中堅に続いて若手が伸びてきていることでバチバチとした試合が見られることで盛り上がってくると森本キャディ。
近年の男女ツアーともに最終日にスコアを伸ばさなければ勝てないセッティングを踏まえて「気持ちが大事だよ。攻められるときに攻める気持ちがないと勝てないよ」と背中を押すことも忘れない。”勝つために”選手をサポートするからこそ通算勝利数35勝を重ねてきた名キャディだ。来季も勝利の陰にいる森本キャディに注目していこう。