ジュニア時代から仲の良かった稲森佑貴の薦めでプロキャディの道を歩き始めた栗永遼。2018年は南秀樹コーチのもとでコーチの修行をしながらプロキャディとしてスポットで参戦し始めていた。そこで先輩キャディからの紹介でジュニアの頃から憧れていた永久シード選手である片山晋呉のキャディを務めることになり、初対面では頭が真っ白になったという。
一日の仕事の中で朝の練習場で緊張感はMAXに
2018年の「マイナビABCチャンピオンシップ」でキャディを務めることなったが、この大会で片山晋呉は過去に4度制している相性のいい大会。キャディとして朝の練習場からスタートすると片山晋呉独特の練習法で緊張感がMAXになった出来事があったと振り返る。さまざまな練習器具を使った練習や左打ちなどある中でティーアップしたボールを打つ連続打ちのドリルで、栗永の役目はタイミングよくティーアップすることだった。
「連続で打つタイミングでティーアップする高さ、ティーアップする場所。これが上手くできないとドリルの意味がありませんし、同じ場所にティーアップしていると芝がゆるんできてティーアップが低くなってしまうんです。これを瞬時に判断してほんの少しずらしながらティーアップしたりするのが本当に緊張しました(笑)」
タイミングを間違えれば選手も栗永本人もケガの恐れもあり、何よりその事によって試合のメンタルに影響を及ぼしかねない。試合の前から冷や汗をかくような緊張感を味わったことが思い出されると話す。練習ラウンドでコースセッティングによってバッグに入れるクラブが7WやUTに変わったりすることからから「スタート前の本数の確認も死ぬほどやりました」。そして、練習ラウンドから試合が始まるとプロキャディとしての”いろは”から指導が始まったという。
「初めてキャリーを測って、打った番手、ライ、左足下りとか、風などすべての条件をメモしてキャリーがいくつでランがどれくらいという事を蓄積していくことを教わりました」
風やライ、ピン位置、グリーンの傾斜など数多くの情報を集め、どの番手でどんな球筋で攻めるのか、永久シード選手である片山晋呉の技術力をまざまざと見せつけらることになったという。
「同じ距離でも球筋を変えながら2番手3番手の選択肢が出てきます。ライや風などその時の状況に応じて最適な番手と球筋を瞬時に判断しなければならないので、頭の中はずっとパニックでした。それでも何回か『ここどうやって打ったらいい?』とその判断をゆだねられて、必死過ぎてなんてこたえたか覚えていないんですが、そうやって僕を育てようとしてくれていましたし応えるためには準備がすごく大切なんだと教わりました」
風は何時? 18時からです!
ラウンド中は、風の吹いてくる方向を時計の文字盤に例えて、2時からなら右から少しアゲンストが入り、3時なら横からの風と選手に伝えるのがキャディと選手の通常のやり取りだが、片山晋呉の場合は、「2時半」というさらに細かい風向きのチェックが入るという。
「晋呉さんの場合は2時半とかあるんです。2時と2時半はそんなに違うのか? と思いましたが、風にぶつけたら落ちるし、普通に打ったら抜けてしまう。その微妙なニュアンスでショットを打ち分けていると、初めて知りました」
1ホールごとに風の向きをヤーデージブックにメモしておき準備の大切さをここでも知ることになった。
3日目には堀川未来夢と清水重憲キャディ、松村道央と森本真祐キャディとのペアリングになりベテラン名キャディとの組合せに朝からド緊張の連続だったと振り返る。
「3日目の17番のパー4で『風どう?』と晋呉さんに聞かれて、真後ろからのフォローだったので6時と答えればよかったのですが、あまりにテンパり過ぎていて18時と答えてしまったんです。そしたら『え? 18時? 1周回っちゃてるじゃん』と笑いが起き晋呉さんは打てなくなってしまったんです」
すると次の打順の堀川未来夢が風何時? と聞くとベテランの清水重憲キャディは「18時から!」と答えられて恥ずかしい思いをしたが、ベテランキャディの余裕を感じられた瞬間だったと振り返る。
「怒られることも多かったのですが1打へのこだわりと、教えよう、育てようという晋呉さんの気持ちがすごく伝わってきました」
プロキャディの道を歩み始めた駆け出しプロキャディ栗永遼の奮闘は1年後の同じ大会で片山晋呉のキャディを務めることに。その奮闘はまた別の機会にお届けしよう。