みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究者およびインストラクターの大庭可南太です。これまでの記事では、ゴルフ上達のための基本条件として「ブランコの三原則」について説明し、その達成のためには「まわして打つ」ことは必ずしも上策ではないのではないかということを説明してきました。今回からはスウィングの核心である「木こりの三機能」の達成に向けてのカギとなる「手の教育」という考え方について説明をしていきます。
スウィングの基本構造は『大小の振り子』
前回までの記事の要点は、「手(腕)をしっかり振るための土台作り」ということでした。今回は実際に「どのように手や腕を振るのか」についての考え方を説明していきます。
「ザ・ゴルフィングマシーン」ではスウィングの基本的な構造は「大きい振り子」と「小さい振り子」のふたつの振り子で構成されているとしています。まず両肩とグリップでできる三角形を動かす「大きい振り子」です。「ザ・ゴルフィングマシーン」ではこの構造を「プライマリーレバーアッセンブリー」と呼んでいますが、ここでは以後「大きい振り子」とします。
次に両手首の入れ替えでクラブヘッドを動かしているのが「小さい振り子」です。「ザ・ゴルフィングマシーン」では「セカンダリーレバーアッセンブリー」と呼びますが、同様に「小さい振り子」と表記します。
ゴルフのスウィングはこれら大小の「振り子」の組合せで出来ているという、「ツーレバーシステム(二重振り子)」という概念は、「ザ・ゴルフィングマシーン」だけではなく、欧米では一般的な概念となっています。
ショットの目的に応じて大小の「振り子」の出力の割合や、その発生のタイミングなどについて、ほぼ無限とも言えるバリエーションがあるとはいえ、あらゆるゴルフスウィングはこの概念の応用であると言えます。
ロブショットやライン出しの打ち分け
たとえばロブショットのような、フワリと浮かせるボールの場合、「小さい振り子」を多めに使ってクラブヘッドを大きく動かし、ボールの下をくぐらせるようにすることで「高くて飛距離の出ない」ボールを打つことができます。
反対に「大きい振り子」の出力を多めにすることで、たとえばパッティングでは正確なストロークを行ったり、ライン出しと言われる技術ではフェースターンを抑えて曲がり幅の少ないボールにすることができます。
ショットの種類、言い換えればその選手の技術の引き出しは、大小の「振り子」の制御能力に比例していると言って差し支えないと思います。
プロは『小さい振り子』が劇的にうまい
そしてアマチュアとプロで明らかに異なるところが「小さい振り子」の能力ではないかと思います。どのくらいプロが上手いかというと、もうデカ盛りラーメンを食べる時の「箸づかい」くらい上手いです。
高く積まれたモヤシを崩さずに、ぶ厚いチャーシューにかぶりつきながら、具材の下に埋もれた麺をスープの下から引っ張り出して食べようとするとき、じつはかなり繊細でいろんな種類の「箸づかい」をしていますが、「ここでこう箸を使わないと」とは考えないですよね。
同様にプロはライやピンまでの距離などの状況から、「こういうボールを打とう」というイメージまではしますが、その時に大小の「振り子」の使い方なんて考えていないと思います。出球をイメージすれば自然とスウィングの全体像とふたつの振り子の出力が決定して、あとは素振りの通りに振るだけです。
このように「プロが無意識にできていること」というのは、ついついレッスン内容から漏れてしまいがちなので注意が必要です。試しに冒頭の画像Bの振り幅でいいので、手元は動かさずに手首の入れ替えだけでクラブヘッドを動かしてボールを打ってみてください。ダフらず、トップせず、毎回クリーンにヒットするのは意外と難しいはずです。あるいはシャンクになる方も多いのではないでしょうか。
『小さい振り子』の構成と『手の教育』
じつはこの「小さい振り子」を正確に動かすことは、かなりの練習を必要とします。とくにバンカーショットで正確な位置にクラブヘッドを下ろせない、ロングアイアンやフェアウェイウッドが上手く打てないという方は、おそらく「小さい振り子」だけでボールを打つことが難しいはずです。
手首だけで振り子を作ろうとすると、多くの人が左手首を甲側に折ってしまう「フリップ」の状態になりやすいのです。じつは「小さい振り子」の動作は、分解すると左手親指側に手首を折る「コック」した状態をキープしたままクラブヘッドを「ターン」させることが必要です。そうしないと「振り子」の軌道が地面に近寄ってしまってダフることになります。
この「コックしたまま」でクラブヘッドを動かすというのが、非常に訓練が必要なポイントなのですが、これは明らかに「手」あるいは「手首」や「前腕」の能力の問題です。「ザ・ゴルフィングマシーン」ではこうした部位の能力を開発することを「手の教育」と呼んでいます。この教育が進むほどクラブヘッドの位置や動きを正確に管理できるようになり、一度覚えてしまうとほぼ一生忘れることはないとしています。
つまりはお箸を使うように、無意識にクラブヘッドをうまく操作できるようになるということですが、この詳細についてはまた次回説明したいと思います。