女性アスリート長者番付ナンバー1の大坂なおみが打ち明けた心の問題。うつ症状のカミングアウトは世界に衝撃を与えた。ゴルフ界では21年マシュー・ウルフがメンタルヘルス問題を抱えていたことを告白。メンタルのスポーツといわれるゴルフで心の病があってある意味当然だが、ウルフは見えない敵とどう向き合ったのか?

ウルフは19年の秋、コリン・モリカワやビクター・ホブランらと華やかにプロデビューを飾った。モリカワとホブランは大学を卒業してからのプロ転向だったが2歳年下のウルフはオクラホマ州立大学を2年で中退してプロの世界に飛び込んだ。

すると例がないほどのスタートダッシュでデビュー4戦目にして3M選手権に優勝。20歳の新星はシードを獲れない苦しみや戦う場がない辛さも味わうことなく向こう2年、無条件でツアーに参戦する権利を得たのだ。

比較的小柄で独特の腰をクイッと入れてからテークバックをはじめる変則スウィングながら球を遠くに飛ばすことに長けており、その年のドライビングディスタンスは321ヤードで同部門5位にランクイン。

画像: 順風満帆のように見えたウルフには人知れず異変が起こっていた(写真は2019年のZOZOチャンピオンシップ)

順風満帆のように見えたウルフには人知れず異変が起こっていた(写真は2019年のZOZOチャンピオンシップ)

20年には全米プロや全米オープンのメジャーで優勝争いを演じ勝てなかったものの全米オープンでは3日目首位に立ち大会史上54ホールの最年少リーダーにもなった。絵に描いたような順風満帆な滑り出し。前途には洋々たる未来が広がっているように見えた。

しかし21年に入ると異変が起きる。2月のWGC-ワークデイ選手権で初日11オーバー83を叩いて途中棄権。4月のマスターズではスコア誤記で失格になった。

何かがおかしい。ウルフの身に何かが起きている、と周囲が感じ始めた頃、彼は予告なくツアーを欠場し始めた。彼の不在が5月の全米プロ欠場で公になり一部で騒ぎになったが6月の全米オープンで電撃復帰。大会初日70をマークし11位タイにつけたウルフは2日目さらにスコアを伸ばし3位タイに浮上。決勝ラウンドで伸ばせず結果は15位タイだったが生まれ変わったように躍動するウルフにツアー仲間も目を見張った。

コロナによって自由に人と交流できなくなり孤立感を深めメンタルが不安定に。それがゴルフのパフォーマンスに影響し負のスパイラルに陥って「精神をやられてしまった」とウルフはツアーを休んでいた理由を説明。「成績が悪いと自分を責め、自分の価値をゴルフの良し悪しで測ってしまった。その反省から今はとにかくゴルフを楽しむこと、ハッピーでいることだけを考えている」

同じようにうつに苦しんだ経験があるバッバ・ワトソンは大坂なおみがメンタルヘルスの問題を抱えていると公表したとき、自らサポートを申し出ているが、ウルフにも同様に救いの手を伸ばしている。

ゴルフ界でうつに苦しんでいるのはウルフやワトソンだけではない。21年に2勝を挙げたマックス・ホマも期待に押しつぶされそうになった経験を持つし、うつ病からアルコール依存症になっのクリス・カークのような選手もいる。ゴルフは時に人の心を切り刻む刃(やいば)になる。しかし最近人々(ゴルファー)は少しずつ気づきはじめている。

「大丈夫じゃなくても大丈夫なのだ」ということに。

ウルフは自分を追い詰める前に「成績に関係なくハッピーでいよう。それが一番大切なことだから」と気がつき暗闇から脱出することができた。

メンタルヘルスの問題は人ごとではない。隠さずさらけ出すことで開ける道もある。

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