クラブを右手で押して使う「ヒッター」と左手で引いて使う「スウィンガー」
青木瀬令奈のコーチ兼キャディとして2勝目を挙げ初の海外メジャー「AIG女子オープン」にも参戦しした大西翔太コーチ。現地で見た海外のプレーヤーを「日本の選手に比べて、スウィングのクセが強く、そのクセをアドバンテージにしたプレースタイルで戦っている」と感じたという。そこでスウィングのクセを選手のアドバンテージに進化させるため、アメリカで50年以上前に発表された「ザ・ゴルフィングマシーン」を研究しレッスン活動もする大庭可南太のもとを訪れた。そしてさまざまな意見交換をする中で「ヒッター」と「スウィンガー」の概念を聞き頭の中がクリアになったという。
「『ヒッター』と『スウィンガー』の概念を教わり、方向性と距離のコントロールの仕組みが改めて明確になりました」(大西翔太コーチ)
「ザ・ゴルフィングマシーン」ではクラブを“右手を使って押して使う「ヒッター」”と“左手を使って引いて使う「スウィンガー」”とにタイプ分けされているという。具体的には、手首の動きを少なくし両肩と手元で作る三角形を大きく動かし右腕の曲げ伸ばしを使ってクラブを押すように打つタイプを「ヒッター」とし、両肩と手元、前腕の回旋の動きも使いヘッドの運動量を大きく使うのは「スウィンガー」としている。
どんなゴルファーでも状況と求められるショットに応じて「ヒッター」的要素の割合を多く使って高さや方向性をコントロールしたり、ヘッドを効率よく動かして「スウィンガー」的要素を多く使って飛距離を稼いだりしていると大庭はいう。
「右腕の曲げ伸ばしを使ってクラブを押すように使う『ヒッター』的要素は、フェースの向きをスウィングプレーンに対して一定にしておくことで方向性には優れますが、飛距離は落ちます」(大庭可南太)
例えば番手間の距離を打ち分ける際には、前腕や上腕を回す動作を使わずに打つことで飛距離をコントロールしながら方向性も高める「ヒッター」の動きの割合を高めていると大庭はいう。インパクト前後の動きだけでなくフォローの形もコンパクトな位置におさまるのが特徴だ。
いっぽうで左手を使ってグリップエンド方向にクラブを引っ張るように使う「スウィンガー」の動きは、インパクト前後で手元を反時計回りに回転させる動きが入ることでクラブヘッドの動く距離を長く使いヘッドを加速させ飛距離を稼ぐことにつながっているという。
つまり「ヒッター」の動きに比べて「スウィンガー」の動きはおもに前腕を回す動き(回内・回外)が入ることでクラブヘッドの動く距離が長くなり飛距離を得るメリットがあると大庭。
「前腕を回す動き(回内・回外)だけでは手のひらは180度しか回せませんが、肩の付け根の上腕も含めて回すように使う(内旋・外旋)と手のひらは360度近く回すことができます。スウィングの大きさや強度に合わせてこの動きを積極的に使うことでヘッドスピードを上げ飛距離を稼ぐことができます」(大庭可南太)
もちろん、スウィング中には下半身や上半身の動きや手首曲げ伸ばしなどの動きも入るが、ここでは「ヒッター」と「スウィンガー」の動きを腕の動きに限って説明してもらった。
いちばんわかりやすい例は、左手を支点にして右腕で押すように打つ長尺パターの動きや、ランニングアプローチの動きなどは「ヒッター」の要素を多く取り入れた動きといえるだろうし、フルショットやロブショットなどクラブヘッドを大きく動かす打ち方は「スウィンガー」の要素を多く取り入れた動きだと理解できる。
「『ヒッター』、『スウィンガー』のタイプはあるものの、どの選手も状況や求められる弾道に応じてその割合を変化させながら打っています。これらの動きは『ザ・ゴルフィングマシーン』の中に書かれているほんの一部分ではありますが、50年以上も前にこれらの現代にも通じる動きのメカニズムを解明していたことがデシャンボーや様々なインストラクターが参考にしているところだと思います」(大庭可南太)
もともと「ヒッター」要素の割合を多く使うデシャンボーは飛距離を補うために筋力アップを図り、さらに「スウィンガー」の要素も取り入れることでドライバーの飛距離を伸ばし大きなアドバンテージにしていると大庭。
「どちらの要素を多く取り入れているかは選手よって千差万別だとは思いますが、求められる距離や弾道によって使い分けできるとマネジメントの幅も広がりますし、ショットの精度を上げアグレッシブに攻めることができるようになりそうです」(大西翔太コーチ)
「ヒッター」「スウィンガー」の概念を整理して練習してみることで距離や方向性のコントロールが高まることは間違いないだろう。試してみてはいかがだろうか。