2年に一度のモデルチェンジを果たし昨年秋に発売された「ゼクシオ12」。モデルが刷新され発売される度に一大ブームを起こすほど国内トップブランドとしての地盤は固い。果たして「ゼクシオ12」の販売状況はいったいどうなのか? 矢野経済研究所の三石茂樹が分析した。

ゼクシオブランドは2年に1度のモデルチェンジで23年目に突入

XXIO(ゼクシオ)。言わずと知れた日本のゴルフ用品市場において、長年トップブランドとして君臨してきたダンロップ(住友ゴム工業)のゴルフブランドである。同ブランドのクラブは「2年ごとのモデルチェンジ」を頑なに守っている。つまり、2021年12月に発売された「ゼクシオ12シリーズ」で、ブランドとして23年目に突入したということになる。

私はダイワ精工(現在の会社名グローブライド)で10年、矢野経済研究所で22年、合計で30年以上ゴルフ産業に携わっているが、私の知る中ではこれだけ長い歴史を紡いできたゴルフブランドをほかに知らない。

つい先日テーラーメイドから「ステルス」というブランド(商品)の新製品が発表された。同社はこの数年で「Mシリーズ」「SIMシリーズ」、そして今回の「ステルス」と、ブランドや商品名を短いサイクルでガラッと変えてきているが、ある意味それと対極のブランディングを展開しているのが「ゼクシオ」なのかもしれない。

画像: 2年ごとにモデルチェンジを繰り返し23年目に突入するゼクシオブランドの「ゼクシオ12」。「ゼクシオ12」(左)と「ゼクシオX」(右)

2年ごとにモデルチェンジを繰り返し23年目に突入するゼクシオブランドの「ゼクシオ12」。「ゼクシオ12」(左)と「ゼクシオX」(右)

さて、つい先ほど当社が日本国内約1,100店舗のゴルフ用品販売店の実売データを集計・分析した「YPSゴルフデータ」の2021年12月実績がまとまった。今回は2021年12月に発売された「ゼクシオ12シリーズ」の初動データを過去のモデルと比較分析することで、現在のゼクシオブランドの「立ち位置」や国内ゴルフ用品市場の足下の動向について考察してみたいと思う。

ゼクシオブランド自体、これまでの歴史の中でさまざまなラインナップ展開が行われており単純比較が難しい面はあるが、ここでは極力話を分かりやすくするために、「標準シャフト」が装着されたスペックの7代目(ゼクシオ7シリーズ:2011年12月発売)から12代目までの「6世代間比較」をおこなうこととした。また、前作(2019年モデル)からラインナップされた「ゼクシオXシリーズ」についても前作との初動比較をおこなってみる。

【ウッドの初動は?】メンズモデルは前作を上回る

画像: 画像A 7代目以降のゼクシオシリーズのヘッドタイプ別販売初回月本数表

画像A 7代目以降のゼクシオシリーズのヘッドタイプ別販売初回月本数表

画像Aは、7代目以降の「ゼクシオシリーズ」のドライバー、FW、ハイブリッドのタイプ別販売初回月本数表である。赤字でハイライトされたのが2021年12月に発売された「ゼクシオ12シリーズ」の実績である。数字だと分かりにくいので、それぞれグラフにすると以下画像Bのようになる。

「メンズ」の実績は、前作(ゼクシオ11シリーズ)を6%上回る結果となった。ドライバーのみの実績では6世代の中では5番目という結果になっているが、フェアウェイウッド及びハイブリッドが前作を上回っており、これらが全体の底上げ役を果たしていることが分かる。想像の域を出ない話ではあるが、2021年9月からおこなわれた「ゼクシオ11シリーズ」のマークダウン販売は、これまでよりも全体的に販売数量が抑制されており、フェアウェイウッド及びハイブリッドも同様の傾向であった。マークダウン品の「売りダマ」が少ない中、それらマークダウン品を購入できなかったゴルファーが「ゼクシオ12」を(ドライバーとともに)購入したのかもしれない。

画像: 画像B 販売初回月本数をグラフにしてみるとドライバー、FW、UTとも前作を上回り全体で底上げされている

画像B 販売初回月本数をグラフにしてみるとドライバー、FW、UTとも前作を上回り全体で底上げされている

レディースモデルは歴代最高を記録

特筆すべきが「レディースモデル」の初動である(画像C)。ドライバー・フェアウェイウッド・ハイブリッドいずれも歴代最高の初動を記録したのだ。「メンズモデル」も含めたシリーズ全体では2017年に発売された「ゼクシオ10シリーズ」がもっとも数を稼いでいるが、「レディースモデル」に関してはそれ(ゼクシオ10)をも上回る初動を記録。発売日は2021年12月24日前後と稼働日が少なかったにも関わらずここまでの数字を叩き出したのには正直私も驚いたが、小売店サイドもレディースに大きな期待を寄せて「仕込み(仕入)」をおこなったのではないかと思われる。

画像: 画像C レディースモデルについては歴代最高の初動を記録した

画像C レディースモデルについては歴代最高の初動を記録した

新型コロナウイルス感染拡大以降、女性ゴルフ用品市場の活況が指摘されているが、そうした動向が足下でも引き続いていること、「女性ゴルファー増加」が一時的なムーブメントではなくなっていることがうかがえる、何とも喜ばしいデータである。さらに特徴的なのは、それぞれのヘッドタイプの販売数量がほぼ同等である点だ。恐らく、ドライバー・フェアウェイウッド・ハイブリッドを「セット買い」するユーザーの構成比が「メンズ」以上に高いものと推察される。

2代目「ゼクシオX」は前作を約30%上回る初動を記録

本作が2代目となる「ゼクシオXシリーズ」であるが、「前作比」という尺度では本家「ゼクシオシリーズ」を上回る初動を記録している(画像D)。ドライバー、フェアウェイウッド、ハイブリッドいずれも前作を約30%上回る初動を記録した。

画像: 画像D 前作比で見ると「ゼクシオ」を上回る売れ行きを見せる「ゼクシオX」

画像D 前作比で見ると「ゼクシオ」を上回る売れ行きを見せる「ゼクシオX」

動画配信サイトで松山英樹プロの同モデル試打動画を配信するなど、前作以上にプロモーションに力を入れている様子であったが、そうした施策が数字に表れているのではないだろうか。発売前のメーカーサイドの施策を見る限りではシリーズ内における「Xシリーズ」の販売構成比を上げていきたいという意図を感じ取ったが、マーケットはそうした意図に敏感に反応したようである。

【アイアンの初動は?】「メンズモデル」はウッドとほぼ同じ「レディース」は歴代最高を記録

画像: 画像E メンズモデル(カーボン・スチールシャフト)及びレディースモデルの比較するとレディースモデルの伸びが大きい

画像E メンズモデル(カーボン・スチールシャフト)及びレディースモデルの比較するとレディースモデルの伸びが大きい

続いてアイアンの初動を見てみよう。画像Eが「メンズモデル」(カーボンシャフト、スチールシャフト)及び「レディースモデル」の初動比較であるが、「メンズモデル」はおおむねウッドと同じような結果となっている。カーボンシャフト装着モデルについては前作を僅かながら割り込んでいるものの、スチールシャフトが前作を大きく上回ったことにより、トータルでは前作比102.0%となった。

「ゼクシオX」アイアンはスチールモデルがデリバリー不足か?

「ゼクシオX」2代目アイアンの初動(画像F)だが、カーボンシャフトモデルとスチールシャフトモデルとで大きな差が生じる結果となった。カーボンシャフトモデルは前作比120.8%と好調な需要を形成しているのに対し、スチールシャフトモデルは61.1%と大きく落ち込んでいる。スチールシャフトモデルに関してはパーツ(シャフト)不足により供給が十分に行われなかったのではないかと考えられる。

画像: 画像F スチールシャフト装着モデルのダウンはコロナ禍の影響でスチールシャフトが不足していたのではないかと推測される

画像F スチールシャフト装着モデルのダウンはコロナ禍の影響でスチールシャフトが不足していたのではないかと推測される

そしてアイアンにおいても「レディースモデル」が「爆発的」と形容して差し支えのない初動を記録している。ウッド同様発売日が2021年12月24日と稼働日が少なかったものの、メンズモデルのアイアンの倍近い販売数を叩き出している。表を見て分かるように歴代モデルとの比較でも「ぶっちぎり」のトップとなっており、前作の倍以上の販売数を記録している。果たして「レディースモデル」のここまでの好調の裏にはどのような要因があるのだろうか?

「ゼクシオ12レディース」の躍進は女性ゴルファーの活性化

12月の市況について、「ゼクシオ12シリーズ」の初動を中心に小売市場関係者に取材をおこなっている中で耳にしたのが「レディースの商材不足」を指摘する声である。曰く「ゼクシオ12レディース」の初動がよかったのは、他メーカーの在庫が不足している、または2022年モデルの発売に向けて一部メーカーがバトンタッチ商品の“売り減らし”をしているから」とのことであった。

平たく言うと「ほかに売るものがなかったから、結果的にレディースクラブの需要が『ゼクシオ12』に集中した」ということのようだが、果たしてそれは本当なのであろうか。

「レディース」ドライバー及び「レディース」アイアンの2012年から2021年までの月別販売数量推移について、表でまとめて見てみよう。まずはドライバーに関してまとめた表が画像G。

画像: 画像G 2012年から2021年の月別販売数量推移を見ると2021年12月は2017年に次ぐ販売数量となっている

画像G 2012年から2021年の月別販売数量推移を見ると2021年12月は2017年に次ぐ販売数量となっている

続いて、アイアン(単品ウェッジ含む)についてまとめたのが画像Hだ。

画像: 画像H アイアンにおいては過去10年で最多販売数量を記録している

画像H アイアンにおいては過去10年で最多販売数量を記録している

ご覧の通り、2021年12月はドライバーが2017年に次ぐ販売数量となっており、アイアンは過去10年の中で最多である。さらに2021年年間累計販売実績はドライバー、アイアンともに過去最多の販売数量となっている。上述した小売店のコメントの通り、一部ブランドの商品では供給不足が起きていたのではないかと思われるが、それであれば市場全体の数字がこのような(好調な)ものにはならないであろう。「ゼクシオ12レディース」シリーズの好調な初動は、国内ゴルフ用品市場においてレディース市場が引き続き好調を維持していること、すなわち(休眠層の復活も含めた)女性ゴルファーの活性化がもたらしていると考える方が自然なようである。

過去の国内ゴルフ産業を振り返ると、何度か「プチゴルフブーム」とでも形容できるムーブメントが起きたことがあった。しかしながらそうしたムーブメントは長続きすることはなく「一時的なもの」として短期間で収束してきた。今回「ゼクシオ12レディース」を軸に女性ゴルフ用品市場を分析してきたが、好調な需要は2020年後半から引き続いていると言ってよい。果たして今回の「レディース市場好調」は今後も継続するのか、さらにはレディース市場において圧倒的なシェアを誇る「ゼクシオ」ブランドに対抗する他社製品は出現するのか。今後も要注目である。

画像: 【独占インタビュー】時松隆光プロに5つの質問!シーズンのことから大好きな原英莉花プロのことまでなんでも答えるよ! youtu.be

【独占インタビュー】時松隆光プロに5つの質問!シーズンのことから大好きな原英莉花プロのことまでなんでも答えるよ!

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