35年目を迎えるゴルフダイジェストのレッスン・オブ・ザ・イヤー表彰。今年の同賞にふさわしいコーチ、先生は誰か? 昨年、ツアーの世界で活躍した指導者たちをゴルフ界のご意見番・タケ小山プロとともに振り返った。

松山英樹が選んだコーチ、目澤秀憲

新年早々、ハワイから松山英樹の逆転優勝というニュースが届いたが、昨年の日本のゴルフ界の大ニュースといえば、その松山英樹のマスターズ優勝だ。コーチとして偉業を支えたのが、プロコーチの目澤秀憲。松山の1歳上の30歳で、松山のコーチに就任したのは一昨年の12月のことだった。松山が専属コーチをつけるのは初めてのこと。それだけにこのニュースは、たちまちゴルフ界に衝撃を広げた。タケ小山プロも、驚きをもって受け止めたひとりだ。

「松山選手にコーチがついたことより、TPI(タイトリスト・パフォーマンス・インスティテュート)出身の目澤くんをコーチに選んだことが驚きでした。というのも、松山選手はどちらかといえばフィール(感覚)重視の選手。いっぽう、目澤コーチが学んだTPIは、フィジカル面からスウィングにアプローチし、またデータを駆使したロジック(論理)重視です。ただ、これが松山選手にはアドバイスによって自分のデータが変わり、ショットにも現れることが新鮮だったのではないでしょうか。いずれにしても松山選手にとって、目澤コーチとの出会いが転機になったことは間違いないはずです」(タケ小山)

画像: PGAツアー「ソニーオープンinハワイ」でも松山の優勝をサポートしたチームMATSUYAMA(左から目澤コーチ、岩井トレーナー、松山、早藤キャディ、B・ターナー通訳)

PGAツアー「ソニーオープンinハワイ」でも松山の優勝をサポートしたチームMATSUYAMA(左から目澤コーチ、岩井トレーナー、松山、早藤キャディ、B・ターナー通訳)

ちなみに人間の体の動きはさまざまで、「100人いれば100人への教え方がある」というのがTPIの、また目澤コーチの基本思考。ちなみに松山以外に指導するのは河本結、有村智恵、永峰咲希といった面々。

「共通するのはみんないいスウィングだということです。膨大なデータに裏づけされた、PGAのシード選手のいいところを追究した、最先端スウィングを教えられるコーチでしょう。エフォートレスな(苦労要らずの)スウィングを学べるという点では、これからゴルフを始める人にもいい先生ではないでしょうか」(タケ小山)

稲見萌寧を賞金女王&銀メダリストに導いた、奥嶋誠昭

21年のゴルフ界のもうひとつのビッグニュースが、東京五輪で稲見萌寧が銀メダルに輝いたことだろう。五輪のゴルフ競技で、日本人がメダルを獲得したのは初の快挙。余勢を駆って20-21シーズンで9勝(21年だけで8勝)、賞金女王に輝いた。東京五輪で、稲見のバッグを担いだのが奥嶋誠昭(ともあき)コーチだ。神奈川県生まれの41歳。「研究肌で真面目な目澤コーチに対し、ノリのいいナイスガイ」というのが、旧知でもあるタケ小山の奥嶋評だ。

「選手の長所を見抜き、それを消さずに伸ばせる先生だと思います。たとえば稲見選手の左のたたみは、ほかのコーチだと直されてしまったかもしれません」(タケ小山)

画像: 東京五輪では稲見のバッグを担いだ奥嶋誠昭(左)。稲見萌寧の指導は2019年から。20⁻21シーズン賞金11位の高橋彩華、2勝の木下稜介もコーチする

東京五輪では稲見のバッグを担いだ奥嶋誠昭(左)。稲見萌寧の指導は2019年から。20⁻21シーズン賞金11位の高橋彩華、2勝の木下稜介もコーチする

稲見の武器であるキレのいいフェードボールは、特徴的な“左サイドのたたみ”によって放たれる。

「基本的に稲見選手のスウィングは変わっていませんからね。いい球が打てるのが、自分にとってのいいスウィングとの考え方は、ジャンボさんに通じるものがある気がします。昨年の最終戦も奥嶋コーチがキャディをしていましたが、指導めいたことはほとんどしていなかったのではないでしょうか。ただ、あの飄々とした性格も手伝って、選手をリラックスさせて乗せるのが上手いですね」(タケ小山)

昨年6月の男子ツアー、ツアー選手権で初優勝、次戦のスリクソン福島オープンでも優勝した木下稜介は「奥嶋さんがキャディじゃなかったら勝てていなかったと思います」。「マスターズに連れてってよ」は、奥嶋コーチから木下へのリクエストだ。

計8勝と女子ツアーで躍進。辻村明志率いる“チーム辻村”の諦めないゴルフ

女子プロゴルフ界で“おにい”の愛称で知られるのが辻村明志(はるゆき)。福岡県出身の46歳。14年に上田桃子の専属コーチとして独立すると、徐々に選手が集まりチーム辻村と呼ばれるようになる。20-21シーズンはチームで8勝という活躍ぶりだった。

画像: 「チーム辻村」と愛称で知られるほど、数多くの女子プロを指導している辻村明志。20⁻21シーズンは上田桃子、松森彩夏、山村彩恵、永井花奈、小祝さくら、吉田優利を指導した

「チーム辻村」と愛称で知られるほど、数多くの女子プロを指導している辻村明志。20⁻21シーズンは上田桃子、松森彩夏、山村彩恵、永井花奈、小祝さくら、吉田優利を指導した

「同じ先生、同じ環境、同じドリルで練習していると選手のスウィングは似てきます。ただ似るのはテクニカルな面だけでなく、このチームにはたとえば最後まで諦めない姿勢とか、勝ち方といった目に見えないものが流れていますね。たとえば小祝選手の最後までバーディを狙っていく姿勢などは、上田桃子から継承されているんじゃないでしょうか。ここで練習すれば強くなる、といった道場のような雰囲気とでも言うんでしょうか。そういう環境を作り上げたのは指導者として立派だと思います。そこには王貞治さんの師匠である故・荒川博さんの指導を受けた影響があるのかもしれません」(タケ小山)

画像: チーム辻村からは上田桃子(左)が1勝、小祝さくら(中)が5勝、吉田優利(右)2勝を挙げた

チーム辻村からは上田桃子(左)が1勝、小祝さくら(中)が5勝、吉田優利(右)2勝を挙げた

アイデアマンで、選手に合わせたいろいろな練習法や練習器具を考案することにも長けている。女子プロ界にあって、とにかく練習することで有名なチームでもある。

ジャンボアカデミーの才能と創意工夫の融合

さて、最強のレジェンドが主宰するのが、ジャンボ尾崎ゴルフアカデミーだ。20-21シーズン、門下の原英莉花が日本女子オープン、リコーカップの国内メジャー2勝を含む3勝を挙げれば、笹生優花が全米女子オープンで優勝。さらに優勝こそないが西郷真央が賞金ランク4位に食い込んだ。タケ小山は数年前のHEIWA・PGM選手権で20分ほど尾崎本人と話す機会があった。

画像: ジャンボ尾崎ゴルフアカデミーを主宰するジャンボ尾崎こと尾崎将司

ジャンボ尾崎ゴルフアカデミーを主宰するジャンボ尾崎こと尾崎将司

「目の前で選手が何人か練習しているなかで、ジャンボさんが聞こえるように言うんです。何も考えないこんな連中だって、300ヤード飛ぶんだよ。俺たちの若い頃に300ヤード飛ばすには、自分の力にプラス創意工夫で飛ばしたもんだ、と。創意工夫はジャンボさんの口癖ですが、無から創意工夫で自分の形を作っていく。ジャンボさんがアカデミーを通じて若い選手に教えたいことは、じつはそういうことではないでしょうか? 実際、ジャンボさんが具体的に技術的な指導をすることは少ないようです。セレクションも行いポテンシャルの高い選手が集まるアカデミーですが、そこに“創意工夫”が加われば、ゴルフ頭脳に優れた世界に通じる選手が次々と出てくる予感がします」(タケ小山)

画像: 20⁻21シーズン、教え子の笹生優花(左)が国内で2勝、翌年に全米女子オープン制覇。原英莉花(右)は3勝、西郷真央(中)は賞金ランク4位

20⁻21シーズン、教え子の笹生優花(左)が国内で2勝、翌年に全米女子オープン制覇。原英莉花(右)は3勝、西郷真央(中)は賞金ランク4位

最後に「シャローイング」という言葉が流行した昨今のレッスン界だが、「形を真似るのではなく、自分なりの形を作ることがアマチュアであっても大切じゃないですかね」と、タケ小山は締めくくった。

TEXT/Kenji Oba
PHOTO/TadashiAnezaki、Hiroyuki Okazawa、ShinjiOsawa、Hiroaki Arihara、Blue Sky Photos、KJR

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画像: www.golfdigest.co.jp
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