米女子ツアーの22年シーズン開幕戦ヒルトン・グランド・バケーションズ・トーナメント・オブ・チャンピオンズでダニエル・カンが世界ランク1位のネリー・コルダを逆転してツアー通算7勝目を挙げた。2年間勝てなかった彼女が開幕勝利を挙げた裏には2人のレジェンドの存在があった。
今大会は昨年のツアー覇者がセレブと一緒にラウンドするユニークなトーナメント。セレブ部門で出場していたツアー72勝のアニカ・ソレンスタムがカンにとって重要な役割を果たした。
「アニカとは頻繁にメールのやり取りをしています。彼女は私のロールモデル。彼女のアドバイスはさりげないものですが私の心に刺さるんです」とカン。もちろんアニカは彼女のコーチではない。現役時代から重視している「スコアメイクのために大事なこと」を後輩に伝授しているようだ。
カンの正式なコーチはタイガーがプロに転向して最初に指導を仰いだブッチ・ハーモン。かつては大勢の選手を抱える第一人者だったが年齢的なこともあり今ではほぼすべての選手を息子クロードに委ね直接指導しているのはカンだけ。
終始上位争いに顔を出していたカンは「ブッチとはずっと連絡を取っていましたけど、深刻な会話じゃなくてジョークばかりでずっと笑っていました」。
「2日目を終わって彼に電話をして3番ウッドが全然当たらない、という話をしたんです。そしたらブッチは“ウェッジの調子はどう?”と聞くのでそれは大丈夫、と答えると“パー5で4バーディを奪えているんだし何が問題なの?” って。私もムキになって、だから3番ウッドが打てないんです、というとブッチのアドバイスがこうでした」
「ならば3番ウッドをバッグから抜けばいい。そのほうがバッグが軽くなってキャディも喜ぶだろう」
このアドバイスにカンは「だってスプーンならパー5で2オンする可能性があるのに」と反発するとブッチは「今週はどちらにしてもそんなことは起きないよ」。
その言葉を聞いてカンはこう思ったという。「彼はいつでも私がどうしたら心地よくプレーできるかを教えてくれる」のだと。
勝てなかったここ数年、カンはドライバーのイップスに苦しんでいた。当時を振り返りブッチは「右にも左にも球が曲がる。インサイドにクラブを引いて頭を残してアウトサイドに振り抜いていたけれど、それは彼女のナチュラルな動きじゃない。気持ちよく振るというのはどういうことなのかを私は彼女に思い出させてイップスを克服させた」
プレーヤーが何の違和感や疑問もなくいかに心地好くクラブを振れるか? それが一貫してブッチが選手に指導してきたことだ。だからスウィングを極端に直すことはしない。本来の持ち味を引き出すのがブッチ流だ。
こう書くと完全無欠のスーパーコーチに思えるが少し違う。15年以上も前のことだからもう時効なので書くが、来日したブッチを取材しに行くと最初は愛想よくいろいろなレッスンをしてくれたのに途中で態度が豹変。マネジャーから契約の関係上レッスンを日本の特定の雑誌にはしていけないことを耳打ちされ口をつぐんでしまったのだ。陽気だった彼が無表情になり我々に背を向け無言に。それならなぜ取材を受けたの? と文句を言いたくなったが、その駄々っ子のような姿がおかしくてつい笑ってしまったことがある。
なにはともあれ2人のレジェンドのアドバイスで復活優勝したカンには心からおめでとうと伝えたい。