「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレイヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈に向かい続け、現在はレッスンも行う大庭可南太に、上達のために知っておくべき「原則に沿った考え方」や練習法を教えてもらおう。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究者およびインストラクターの大庭可南太です。前回の記事では、「ザ・ゴルフィングマシーン」で提唱されている「手の教育」という概念から、左右の手の役割、とりわけ右手の役割として以下の4つを紹介しました。

【1】左腕の長さを保つ
【2】左手(腕)の脆弱性をサポートする
【3】クラブヘッド位置を感知する
【4】「押す」ことでヘッドを加速する

今回は「右手の役割」の前編として、【1】と【2】の機能、つまり右手によって左腕の長さを保ちつつ、その弱い部分をサポートすることについての詳しい説明をしていきます。

左腕が伸ばされている理由のひとつはスウィングの半径を安定させること、もう一つは?

そもそもですが、ゴルフスウィングにおいて左腕が伸ばされている必要があるのはなぜでしょうか。理由は大きく2つあります。

ひとつめは、スウィングの半径は左腕とクラブの長さで決まっており、左腕が曲がってしまうことでその半径が狂ってしまうとボールに当たらないからです。

ふたつめとしては、左腕とクラブは振り子運動をしていますが、この振り子を直接動かしているのは左肩です。しかし左腕が伸びていなければ、この左肩の動作を振り子の動作に転換することができません。例えば曲がっている左腕が単に伸びるだけであれば、クラブを動かすチカラにはなりません。
ヒモがたるんだ状態では振り子を作れないのと同じことです。

画像A 【1】左腕が伸びていることで、左肩を中心としたスウィングの半径の維持されるため、ボールを正確にヒットできる。【2】左腕をヒモに例えれば、ヒモが伸びた状態では手を動かすことで振り子の状態をつくれるが、ヒモがたるんでいるとできない(写真/姉崎正)

逆に言えば、右手は上記のようなエラーが起きないようにサポートをしていることになります。ではどのような時にそうしたエラーが起きやすいのでしょうか。

「手で上げている」にならないために右前腕を使う

まずひとつめは、クラブの「始動時」です。静止した状態からバックスウィングを開始するとき、振り子にはまだスピードがなく、ヘッドにかかる遠心力も少ないため、左腕が充分に伸ばされた状態を維持できないまま、クラブヘッドだけを持ち上げてしまう状態になりやすいのです。よって「ザ・ゴルフィングマシーン」では、「バックスウィングの始動は「右前腕」でおこなうこと」としています。あえて「右前腕」としているのは、手首を使いすぎないようにということだと思います。

画像B トミー・フリートウッドのバックスウィングの始動。右前腕で左腕が伸びるようにチカラをかけながら始動すれば、ヘッドが低く長く引かれる形となる(写真/姉崎正)

逆に右手首を多めに使って、さらに左のひじが曲がったような状態でヘッドだけを「ひょいっ」と持ち上げるような始動を、「手で上げている」などと表現するのではないでしょうか。

切り返し前後でも右手を使って左腕の長さをキープする

もうひとつ左腕の振り子が崩れそうになるのが、クラブが水平より高く上がっている時です。具体的にはバックスウィングの後半から切り返し直後の間です。

振り子を振ってみればわかりますが、水平より高いところでは重力が振り子の半径を崩す方に力がかかるため、ここで右手のサポートを使って左腕の長さをキープすることが必要になります。

画像C 振り子は水平よりも低い位置では、重力によって伸長されるが、水平を超えると伸長が維持できなくなる特性がある。そのため右手を使って左腕が伸ばされた状態を維持する事が必要になる(写真/姉崎正)

そしてトップから切り返しにかけては、右手は左手が引っ張ろうとする方向と逆方向に力をかけつづけることになります。動作としては、右手の生命線で、クラブを握っている左手の親指ごと、グリップを遠ざけるような動作になります。

これが維持できていない状態では、切り返しから左腕が早い段階で目標方向に振り出され、ヘッドがアウトサイドインの軌道で降りてくることになります。そして多くの場合フェースが開く現象を伴って、スライスになってしまうわけです。

画像D トップ付近から切り返しにかけてのチカラの出力方向。左肩が左腕を目標方向に引っ張ろうとするチカラと、右手が反対方向にチカラを出力していることで振り子の半径が維持され、両手の軌道が適切になる(写真真/姉崎正)

じつは右手をこのように使うには、右肩が切り返しでボール方向にせり出てこないように維持しておく必要があります。さらにそれをおこなうには、右腰を前に出さずに回す「ヒップクリア」の状態を作り、つまり右腰と両手が降りてくる場所と干渉しないように空間を確保しておくことが重要になります。右腰が早い段階でせり出てくると、それ以降でスウィングを正常な状態に復元するのはかなり困難になります。

これって「シャローイング」ってやつじゃないですか?

じつはこの右手の動かし方は、昨今耳にする「シャローイング」という動作によく似ていると思います。というとなんだかイマドキのメソッドのように感じますが、この動作そのものは大昔から現在にいたるまで変わらず必要で、存在し続けてきた動作だと私は思っています。

というのは、人体の構造上、デシャンボーのように極端なハンドアップにしない限り、トップのシャフトプレーンとインパクトのシャフトプレーンは同じにはなりません。通常の正常なスウィングでは、アドレスからトップに向けてシャフトプレーンはスティープ(急勾配)になり、ダウンからインパクトに向けてシャロー(緩勾配)になると同時に、ヘッドはインサイドアウト軌道になります。

画像E 一般的なスウィングでは、トップのシャフトプレーンからダウンのシャフトプレーンに向かうまでに、必ずシャローにする動作が発生している。これを発生させないためには、そもそもハンドアップでアドレスしておくことが必要(写真/姉崎正)

よってシャローイングそのものはアウトサイドインになる要素を消すための、非常に原則的な方法だと思いますが、注意しなければならないのは、この右手の使い方は右ヒップがクリアできているという前提条件があって成立するものだということです。右腰がボール方向にせり出してくるのに、右手は背中側に落として強引にシャローにするのはあまりオススメできません。それは「オフプレーン」の状態を招きやすいからですが、これについてはまたいずれ説明をしたいと思います。

左腕を伸ばしてインパクトの精度を向上させる

というわけで、以下のような力の使い方が「ザ・ゴルフィングマシーン」で言うところの「左腕をずっと伸ばしておく」力の使い方になります。ちなみに名前は「エクステンサーアクション」と言います。日本語にすれば「伸長動作」という地味な感じになるのであまり流行らないとは思いますが。

画像F 右手の力の出力方向をバックスウィングからインパクトまでの各ステージ別に表したイメージ図。矢印が長いほど出力エネルギーが大きいことを表している。ザ・ゴルフィングマシーンではこの右手の動作を「エクステンサーアクション」と呼んでいる(写真/姉崎正)

一見地味な動作ですが、フルショットではもちろんのこと、クラブヘッドスピードの低い、例えばアプローチショットなどのインパクト精度向上に絶大な効果がありますので、ぜひ一度お試しください。

次回の後編では、この役割に加えて、同時に右手を使ってクラブを加速する方法について説明をします。

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