カーボンをフェースに採用し大きな話題となっている2022年のテーラーメイドの新モデル「ステルス」。 その売れ行きは前評判通りなのか?  週明けにも伝えた「ステルス」大人気の理由を「ゴルフ産業白書」を発行する矢野経済研究所の三石茂樹がさらに深くレポートする。

発売週の3日間で1店舗当たり80本売れた⁈

2022年ゴルフクラブ春新製品の話題を独占している感のあるテーラーメイドの新製品「ステルス」。すでにさまざまなライターやゴルファー、またはプロ・インストラクターの方が商品に関するインプレッションを投稿されているが、私は発売初週(2022年1月31日~2月6日)の全国主要ゴルフショップの販売実績や周辺データからその実績を紐解いてみたいと思う。

画像: 発売初週の販売実績は2010年以降で過去最高を記録 出典:株式会社矢野経済研究所 国内ゴルフ用品販売動向調査「YPSゴルフデータ(週報版)」(約500店のゴルフ用品小売店の実売実績を集計)

発売初週の販売実績は2010年以降で過去最高を記録

出典:株式会社矢野経済研究所 国内ゴルフ用品販売動向調査「YPSゴルフデータ(週報版)」(約500店のゴルフ用品小売店の実売実績を集計)

まずはグラフを見て頂きたい。このグラフは、2010年以降に発売されたドライバー新製品の「発売初回週の販売本数トップ20」を集計したグラフである。「シリーズ別」と表記してあるが、これは「同一ヘッドで異なるシャフトが装着されているものをまとめて集計したもの」である。「ステルスシリーズ」ドライバーが5167本と過去最高を記録、「ステルスプラスシリーズ」ドライバーが3379本と6位にランクインしている。合計8546本と「驚異的」と表現して差し支えのない本数を販売した。上述の通り当データの対象パネル店舗数は約500店舗であるから、一店舗あたり発売初回週、実質3日間で約80本を販売した計算になる。

こうした予兆は、小売店に試打クラブが配布された以降の予約受注の段階から表れていた。小売店からは「過去最高ペースの予約受注数」「このまま予約が入ると、発売日に店頭に並べる在庫がゼロになってしまう」といった、歓喜とも悲鳴とも取れるような声が上がっていた。

また小売店からの情報を集約すると、これだけの販売実績を記録しているにもかかわらず、すべての需要を満たすことができていないようである。要するに「次回納品待ち」のゴルファーがかなりの数(この実数が分からないのが歯痒いところだが)いるようなのである。さらに、上記本数には2月18日発売予定の「ステルスHDシリーズ」が含まれていない。もし仮に「すべての需要を満たすだけの本数が小売店に納品されて」「ステルスHDシリーズも同日発売」されていたら、果たしてどれだけの本数が計上されたのか…?以降はいくつかの仮説に基づいてそんなシミュレーションをしてみたいと思う。

「イノベーター」の5人に1人がステルスドライバーを購入?

当社が2022年1月に実施した「コロナ参入・リタイアゴルファー実態調査第三弾」では、足下の国内ゴルフ参加人口を約920万人と推計している。この数字を「分母」として、以下の仮説に基づき分解してみたい(話を分かりやすくするために数字を端折っている部分もある。当社が調査、開示している詳細データとは端数が異なる部分があることをご了承ください)

・ 男性ゴルファー構成比:80% → 約730万人(ステルスのメインターゲットのマクロ数値)
・男性ゴルファーのうち、ゴルフクラブに高い興味を持ち発売後すぐに購入する、また頻繁にゴルフクラブを買い替える「イノベーター」の構成比:2.5% → 約18万人(この数字も諸説あるが、ここではイノベーター理論の数値を採用する。この数値を「発売初週に新製品を購入するゴルファーの最大値」と仮定する)

続いて上述した「もしステルスがすべての需要を満たすだけ小売店に納品されて」「HDが同日発売されていたら」についてのシミュレーションをおこなう。

-実際のデータ
・ ステルスシリーズ初回週販売本数:5167本
・ステルスプラスシリーズ初回販売本数:3379本

-仮説データ-
・もしHDシリーズも同日発売されていたならば、「ステルスシリーズ」とほぼ同等の販売本数を記録していた → 5167本
・しかしながら発売日に商品を購入できなかった層が30%存在する。この数値から、「仮にすべての需要を満たせていた」場合の販売本数はそれぞれ以下の通りとなる
 

・ ステルスシリーズ、ステルスHDシリーズ:約7400本
・ステルスプラスシリーズ:約4800本
・ 合計:約1万9600本

また、当社「YPSゴルフデータ(週報版)」は上述した通り国内約500店舗の小売店の販売実績を集計したパネルデータであり、国内すべての販売実績を網羅したものではない。仮に同データの市場カバー率を「50%」仮定すると、「日本全国で発売初週に売れていたであろう数」は3万9200本、という計算となる。

言うまでもなく上述した「イノベーター層」だけが購入している訳ではないだろうし、1人で2本、または2本以上購入しているゴルファー、もちろん女性ゴルファーも存在するだろう。そのあたりはご容赦頂きたいが、上述した仮説のデータを用いて計算すると、「イノベーター層約18万人のうち3万9200人がステルスを購入した」ということ、「イノベーター層の5人に1人がステルスを購入した」という計算になる。

ゴルファーを商品で「ワクワクさせること」はまだまだ可能だということ

これまで述べてきたデータは、言ってみれば「数字あそび」のようなものなのかもしれない。仮説に仮説を掛け合わせた数字なので「それ本当か?」と聞かれると若干心もとないのが正直なところである。しかしながら私が言いたいのは「イノベーターの5人に1人がステルスを買っている」などということではなく、「まだまだ“モノ”でゴルファーをワクワクさせることは可能である」ということを今回のステルスが証明してくれた、ということ。

画像: 左から「ステルスHD」、「ステルス」、「ステルス プラス」

左から「ステルスHD」、「ステルス」、「ステルス プラス」

ゴルフクラブ市場では長らく「反発規制」を含めたさまざまな「飛び」に対する規制が設けられており、「もはや飛躍的な性能進化による市場活性化、市場成長は期待できない」というのが業界のある種の「共通認識」となっていた面がある。それに伴いゴルファーのゴルフクラブの購入サイクルの長期化、購入意欲の低下といったことが問題視されてきた。

さらに言えばチタンウッドが世に出て以降、「カーボンウッド」を開発、発売することは一種の「タブー」とされてきたのが実情。過去にいくつかのメーカーがそのタブーに果敢に挑戦しカーボンウッドを発売してきたが、残念ながら市場に変革をもたらすまでの実績を残せていない。

その主たる要因は「打球音」である。カーボンウッド特有の「ポコーン」という打球音が(仮にどんなに性能面で過去の製品や競合製品に比べ優れていたとしても)ゴルファーに受け入れられなかったのである。私も先日テーラーメイドのスタッフとラウンドした際に初めてゴルフ場でステルスの打球音を聞いたのだが、明らかにこれまでのカーボンウッドとは異なる打球音であった。言われなければチタンウッドと言われても分からないレベルであると個人的には感じたくらいである。

聞いたところでは、テーラーメイドは2000年からカーボンウッドの開発に着手していたそうであるが、そうした「タブーに対する挑戦心」や「課題(打球音)を克服するための飽くなき探求心」によって生まれたのが今回の「ステルス」であり、それに反応したゴルファー達の「ワクワク感」や「新しい価値に対する期待」のようなものが今回の「過去最高の売上」に繋がったのではないかと思っている。

カーボンウッドの応用技術については日本企業が先端を行っているという認識を持っている私としては、米国メーカーに先鞭をつけられたことに対する複雑な思いがあるというのも正直なところ。また今回のデータはあくまでも発売初回週の実績を集計したものであり、次週以降どのような数字の変化が起きるか分からない。もしかしたら「買ったけれど飛ばない」「合わない」というゴルファーが続出する可能性も否定はできない。しかしながら今回のテーラーメイド、「ステルス」にメーカーとしての「矜持」を見た気がするのである。

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