――昨年はサントリーで優勝。全英女子オープンにも出場し。キャリアハイのシーズンになりましたけど。振り返ってみてどんなシーズンでしたか?
青木瀬令奈(以下青木):2020-2021が統合シーズンだったので、20年はコロナ禍で12試合に出場したのですが、いつ試合が開催されるのかといったことを含めて、不安を感じながらの1年でした。オフを挟んで21年は、試合が開催されるかどうか分からない中、3年後だったり5年後を見据え将来のことを考えたり、シード取れなかったらこのまま引退かなといった不安を抱える日々がつづきました。そんな私を見て大西翔太コーチから「覚悟が足りない」とか「君ならできる」といった叱咤激励をもらいました。
あと5月の段階で同じリシャール・ミルファミリー(スイスの超高級時計リシャール・ミルのパートナー契約者)のレーシングドライバーの松下信治さんからも、「今、自分が居たいと思う場所が本当に居たい場所なんだから、そこから自分の足で下りることはないよ」と言われ、確かに引退とかその先のことって、今考えることじゃないなって。その一言が凄く強く刺さりましたね。あと、松下さんから前向きにやるうえで良いことを教えてもらったんです。
――その「良いこと」とは?
青木:レーサーの方ってゼロコンマ何秒の世界で平常心を保たなければいけないので、そのために特別なトレーニングをするらしいんです。質問にYES/NOのボタンを押して答える時の脳波を測定するんですが、自分独りでやる時は脳波も安定して成績も良いんだけど、同じ部屋で数人で一緒にやった場合は、ほかの人がボタンを押すカチカチ音が凄い焦りを招き脳波も乱れ、普段の成績が出せない。そういう場面をわざと作って、今、自分の心の重心がちょっと上がっているなとか、よしじゃあ下げようということを意図的にやるらしいんです。
それを聞いて、ゴルフも一緒だって思って。ラウンド中、とくにパッティングとか、心の重心が上がりやすい場面っていっぱいあるので、それを常に低く、低く、重心を下げたままにしようというのをサントリーの時にテーマとして決めて臨んだんです。それで、優勝争いとかをしていても、相手がバーディを取ろうが、自分の重心位置を低くするということだけを考えてやっていましたね。
――そのサントリーレディースですが、稲見萌寧選手に4打差をつけられての2位で最終組でスタートして、その後は二人のデッドヒートの展開でした。そんな中、勝負どころの16番のパー3ホールで稲見のショットがピンにビタっと来たと思ったら、青木選手はさらにその内側につけましたね、あれは何番で打ったんですか?
青木:ユーティリティの6番です。生命線というか絶対領域のクラブだったので、来た! と思いましたね。
――バーディパットはどういうイメージでしたか?
青木:じつは2016年にまったく同じラインを保険を掛け過ぎて打ち切れず、それで1打差でカンスーヨンさんに優勝されたんです。それが凄い悔しくて。下りのスライスで傾斜的にも池に向かっているので切れそうなんですけど、じつはあまり切れないんです。私はそれを分かっているんだから打つしかないという覚悟をもって打って、それが入ったので、あの時の悔しさも生きたなって思えてよかったですね。
でも、今思い返しても3日目までのゴルフはまったく覚えていないんですよ。どんなウェアをきたかも覚えていなくて、それだけ1打1打に魂を込めてじゃないですけど、集中できていたのかなと思います。最終日だけはよく覚えていますけど。1勝目は初日が中止になって2日間になった試合だったから、ちゃんと優勝していないみたいにいわれることもあって。だから4日間競技で勝てたことは自信にもなりましたね。
――優勝後の試合では予選落ちが2回だけ、前半戦に比べてグッと減りました。やはり気持ちの持ち方の違いですか?
青木:そうですね。4日間大会で、最終日、最終組で優勝争いをして競り勝ったという経験によって、こういう感じでチャンスを増やしていくんだということが分かってきたので、複数回優勝をしたいという気持ちもあって毎週優勝を狙っていました。その結果です。
――昨年はサントリーレディス優勝によって資格を得て、全英女子オープンに初出場しました。会場はカーヌスティ・ゴルフリンクスでしたが、どんな印象でしたか?
青木:パー5はフォローだと普通に2オンするんだけど、アゲンストだと3打目で180ヤード残ったりして、風によって全まったく違うホールになるんですよね。ドライバーの調子がよくなくて、ティーショットでバンカーに入り2打目はウェッジで出すだけで、そうなると残り150ヤードから2回でいってパーを取らないといけないわけですよ。ブーブー言いたくなるような状況だけど、でも目の前のこの1打に最善を尽くすということの大事さを再認識したというか、2オン2パットがよいわけではなくて、50ヤードから2回で上がれるように考えるというのが大事なんだという、ゴルフの神髄のようなことを再確認できましたよね。でも楽しかったし、その分、予選通れなくて悔しかったですね。「全米」だったら私のゴルフスタイルはなかなか通用しないと思いますけど、「全英」はワンチャンスあるなって思いました。また今年も行きたいなと思いました。
――20-21年シーズンは、いち選手としてだけでなく、プレイヤーズ委員長を務められましたね。“青木瀬令奈色”が出せたなと思うことはありましたか?
青木:私自身も4年間ステップアップツアーでの下積みがあるので、レギュラーツアーの選手以外のステップツアーや、レジェンド、レッスンなどの選手の立場に立って、それぞれの意見を汲み取って協会にリアルな声として伝えられるのが、私がコロナ禍の時期に会長になった意味があることなのかなと思ってやっていました。
それで、シーズンを統合した関係で予選会が開催されなかったので、そうなると調子が良いのに2年間出られなくなる選手も出るわけで、それはちょっとかわいそうだよねっていうことになって、そういう選手にもチャンスを作りたいということで、主催者企業や協会とプレーヤーズ委員会で話合って『増枠予選会』を開催しました。
これは試合の出場者数を10名前後増枠をして、その増枠ぶんの出場を得るための予選会です。出場者の増枠は、ハーフターンが1時間以上になってしまったりとか、予選を通っても下位選手には賞金が無かったりとかして賛否両論は多分あったと思うんですけれど、コロナ禍で出場機会が少なかった選手の人たちのための試みだったと思います。
――現在のオフシーズンはどういった課題に取り組んでいますか?
青木:今までのオフはスウィング改造したりとか、けっこう明確なテーマをもってやっていたんですけど、今年は変えない勇気をもち、『不変』で行こうと思っています。その中で質を向上させていこうと思っています。先日一緒に合宿をさせていただいた藤田幸希さんも、オフって何を意識されているのかを聞いたら、そんな大掛かりなことはできないから、「もうちょっとこうなったらいいな」というのを突き詰めてやるだけと仰っていて、確かにそうだなと思って。
21年はキャリアハイでいい成績の年だったので、今年は大掛かりな変更をするというより、まずは1勝して、あとはいつも言っていることですけれど、リコーカップにファンの皆様を連れて行くということを目標にしています!