渋野日向子選手というのは、なんと期待を裏切らない選手なのでしょうか。首位からスタートした昨日3日目には5つスコアを落とす乱調で21位まで順位を下げていました。
悔しさを思い切りにじませたラウンド後の会見から一夜明けててスタートすると、2番から3連続バーディ、その後はバーディチャンスをわずかに外しながら、この日初めてグリーンを外した8番でボギー、9番のパー5はパーとし前半を2アンダーで折り返します。
後半は10番から1メートル少しにつけるとまた3連続バーディを奪い、13番をパー、14番の池越えのパー3でもバーディとしスコアを4つ伸ばします。風が強くなってきた中で15番から耐えるホールが続きましたが、ボギーを打つことなく最終18番ホールでは3打目をバーディチャンスにつけ歓声を浴びます。惜しくもバーディはなりませんでしたが、3日目に崩れ最終日にバウンスバックしてきた渋野選手を称える大歓声が暖かかったです。
7バーディ1ボギーの66というスコアでしたが、8番、9番、15番、17番以外はすべて6メートル以内のバーディチャンスに付けていました。ドライバーはフェアウェイをキープしアイアンショットがピンと同じエリアをとらえたことでバーディチャンスを量産しました。17番ホールでバンカーからナイスアウトしピンに寄せるとギャラリーから大歓声が沸き、歓声に応える渋野選手のしぐさを見てボランティアの女性からは「she's cute!」なんていう声も聞こえてきました。こちらでも人気の選手なることは間違いなさそうです。
4日間を振り返ってみると、前週の最終日に80と叩いた翌週の初日は、風の吹く難しい午後スタートの中で3アンダーと上々のスタートを切りました。ショット、パット、アプローチも安定しグリーンを5回外しましたがボギーは1つと、芝質の違いにも対応し「大人なゴルフ」を見せました。
2日目は1番のOKバーディから始まり、グリーンが硬く速くラフに入ると難しいミッションヒルズCCをものともせず7バーディ1ボギーの66で首位に躍り出ます。21年初頭に大幅なスウィング改造に取り組んでから1年と3か月余り、メジャーの首位に立ちました。
3日目は朝から緊張感の漂うスタートとなりました。2番のパー5で右ラフにドライバーを曲げると、そのホールはチップインバーディでしのぎますが3番からショットもパットも乱れがとまりません。2度のダブルボギーを含めて17番パー3でバーディを奪うまで苦しみました。77と崩れ大きく順位を落とし悔しさをにじませる会見で「3日目というのはわかっているんですけで相変わらず宙に浮いているような感じだった」と振り返ります。見ていてメジャーで首位に立つ緊張感のせいか2日目までよりも呼吸が少し浅くなって、そのせいかわずかなテンポやタイミングのずれが生じてしまったのかなと感じました。
そして最終日は、2日目を再現するかのような7バーディ1ボギーの66とし前日急落したスコアボード駆け上がりました。ラウンド後の会見では、前日の不調から切り替えるのに時間がかかったと話しましたが「やけ食いしました。牛タンをお腹いっぱい、ご飯も大盛りで食べました(笑)」としっかりと切り替えてシード権獲得に必要なポイントをしっかりと稼ぎました。深く密集したラフ、硬く速いグリーンでもしっかりと結果を残せたことで今後の自信にもなったことでしょう。
日本勢の活躍は渋野選手だけではありません。畑岡奈紗選手は、大幅にアップデートしたギアでも飛距離や弾道のコントロールも手になじんできているようです。それと、世界ランク1位のコ・ジンヨン選手も師事するショートゲームのコーチを新たに迎え、パッティングやアプローチに新しいものを取り入れながらの実戦となっています。それも最終日には噛み合い7バーディ2ボギーの67と巻き返し17位タイで終えています。4戦残るメジャーで優勝を手にできることに期待しましょう。
安定したプレーが特徴の古江彩佳選手ですが、初日はドライバーショットに苦しみました。しかし絶妙なアプローチで切り抜け予選を通過すると、3日目には16番を終えて3アンダーとスコアを伸ばしていましたが上がり2ホールを珍しくボギーとしていました。最終日は1バーディ3ボギーの2オーバー、トータル1アンダー44位タイで終えました。硬く速いグリーンでも正確なショットと対応力の高いアプローチで十分に戦えるポテンシャルを感じさせてくれました。昨シーズンのメルセデスランキング1位の実力はこれからの試合でも発揮してくれることでしょう。
3日目に66と追い上げ11位タイから出た笹生優花選手は、先週優勝したジュニア時代からの仲のいいアッタヤ・ティティクルとの組み合わせでした。3バーディ3ボギーのイーブンパーでトータル5アンダー17位タイで終えています。飛距離に関していうと4日目のドライビングディスタンスの1位は323ヤードでパティ・タバタナキット、2位に笹生選手で316ヤードだと現地のLPGA の担当者が教えてくれました。本当によく飛んでいましたし、3日目のように飛距離をアドバンテージにスコアを伸ばす笹生選手は、パティ・タバタナキットやアッタヤ・ティティクルとともにこれからのLPGA を盛り上げるひとりになってくるはずです。
優勝は、3日目に9バーディ1ボギーの64と爆発し2位に6打差を持って出たジェニファー・クプチョ選手が74とスコアを落としましたが見事にメジャー初優勝を飾りました。19年のオーガスタナショナル女子アマを制した24歳がその実力を早々に示しました。今後も日本勢のいいライバルになることでしょう。
2週間LPGA を取材してきましたが、世界中から集まったさまざまな国籍の選手が集うLPGAですが、聞いてはいたものの飛距離ではそれほどのアドバンテージを持たない韓国勢の活躍と層の厚さは実感しました。そういう意味では日本勢にもこちらで活躍できるチャンスは大いにあると感じましたが、韓国選手のマネージャーをするTJ氏に話を聞くと言葉やトレーニングなど家族やチームで最低2年以上は準備をしているといいますから、日本勢も言葉や移動、食事やチームなどこちらの環境に対応する準備は必要でしょう。
来週はオーガスタからマスターズのレポートをお届けします。
写真/Blue sky photos