「MT-28」「MTIウェッジ」など数々の名器を世に送り出し、日米両ツアーで多くのプロ支給品を手がけたクラブ設計家・宮城裕治氏が流行に惑わされないクラブ選びとクラブ設計の真実をクールに解説する。今回はアイアンのお話。

みんゴル取材班(以下、み):ここ2、3年の間に中空アイアンが増えてきてキャビティやマッスルバックが少なくなっている気がします。そもそもアイアンを中空にするメリットは何ですか?

宮城:ウッドと同じようにフェースを薄く作れるので、たわみを利用して飛ばせることが一番です。キャビティにしろマッスルバックにしろフェースの下半分は厚くしないといけないので、飛距離性能に関してはロフトを立てる以外何もできません。ポケットキャビティであればフェース全体を薄くできますが。

み:そのポケットキャビティよりも中空が増えているのはなぜでしょう?

宮城:単に見た目の問題でしょう。ポケットキャビティはいかにもやさしそうな形ですが、バックフェースに蓋をして中を見せなければ見た目はマッスルバックです。

画像: バックフェースの形、構造、いろんな形状のアイアンが出てきて選ぶ基準がわかりにくくなってきた

バックフェースの形、構造、いろんな形状のアイアンが出てきて選ぶ基準がわかりにくくなってきた

み:腕前はさておき確かにかっこいいアイアンを使いたい。ところで昔の中空アイアンは打球音がいまひとつでしたが、最近はずいぶんよくなってマッスルバックと遜色がないものもあります。

宮城:機能が優れているのに音質がクリアできなくて消えていったクラブもけっこうありましたね。昔はいまと違い、溶かして液体にした振動吸収材を注入していましたが、ヘッドの中で偏りが出たりして難しかった。けっしてそんなことはないのですが、ヘッドの中で樹脂がチャプチャプ動いているといったプロもいました(笑)。いまは精密に成型した振動吸収材をフェースとボディの間にカッチリはめ込んでいるので打感もいいし重心も設計通りにコントロールできるようになっています。

み:最大の弱点を克服できたことで中空アイアンがこの先さらに増え、キャビティやマッスルバックと置き換わってしまうのでは?

宮城:それはないでしょう。じつは中空アイアンは構造上そんなにやさしくないからです。トップラインが厚くなるので重心はどうしても高くなり、それをタングステンで下げているだけなので。縦の慣性モーメントは大きくなりますがそれだけでやさしいとはいえません。現に中空アイアンに替えて縦距離が合わなくなったというプロからの相談はちょくちょくあって、そんなときは昔のキャビティかマッスルバックに戻してみたらとアドバイスしています。

み:では逆に、いまあえてキャビティやマッスルバックを使うメリットは?

宮城:アイアンでいちばん大事なのは縦距離です。プロなら3ヤード、アマチュアでも10ヤードの幅でコントロールできないと勝負になりません。どう打っても同じように飛ぶ中空アイアンはかえってそれを難しくしているのです。中空がアイアンの進化した形であることは確かですが、初速、打ち出し角、スピン量などで微妙な距離をコントロールしてきたゴルファーの感覚を消してしまう可能性があり、それよりも長年かかって身につけてきたフィーリングを大事にしたほうが実際のゲームでは結果が出せるでしょう。それに、たとえば7番を150ヤードで計算しているのに、あるときいきなり160ヤードも170ヤード飛んでしまうのが中空アイアン。逆にキャビティやマッスルバックはミスをしたら130ヤードとか140ヤードしか飛びません。どちらのミスがリカバリーしやすいかということです。

み:確かにタイガー・ウッズもマッスルバックを替える気配はありませんね。でも、そこまで技術のないアマチュアの場合はどうですか?

宮城:安定した飛びを求めている人やある程度打ち込める人でブレードの薄いアイアンを使いたい人には中空アイアンは恩恵があります。でも払い打ちする人には重心が深くて低いポケットキャビティの方が圧倒的にやさしいと思います。

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