テーラーメイド、キャロウェイ、アクシネット、そしてアディダスゴルフなど名だたるメーカーが軒を連ねる米国カリフォルニア州カールスバッド。ゴルフ用品産業のメッカといわれるこの地で活躍する2人の日本人を訪ねた。
「ツアー360」のプロジェクトリーダーに抜擢された日本人
カリフォルニア州カールスバッドに本部を置くアディダスゴルフで活躍する二人の日本人を訪ねて現地からのインタビューをお届け。2回目は当地の大学で学び、現在は同社ゴルフシューズ部門のマーケティングマネージャーで、「ツアー360」の2022年モデルの開発プロジェクトでリーダーを務めた小林義徳さん。
GD:「ツアー360」といえばアディダスのフラッグシップモデル。その開発で日本人がリーダーシップをとっていたとは正直驚きました。
小林:私としてもこの会社で任された初めての大きなプロジェクトでした。
GD:自己主張の強いスタッフの中で小林さんが抜擢された要因は?
小林:当地で10年近く仕事をしてきた中で身につけたスキルは、いうべきことはちゃんといい切ることです。日本の会社なら他者を尊重して順番待ちしてから自分の意見をいうという暗黙のルールがありますが、それを当地でやると発言の順番は永遠に回って来ないし、自分の本意でない意思決定に組み込まれるリスクもあります。むしろ日本人的な見方だと自己中でウザいと受け取られるような態度の方がこちらでは好意的に評価されるのです。
GD:なるほど。逆に日本人的な発想が役立っている部分はありますか?
小林:自分は非常に細かいことが気になる性格で、商品開発をしていてもスタッフから指摘が細かすぎるといわれることがあります。マーケティングがディティールまで口を出すべきではないと思われているかもしれませんが、そこが私の個性であり、自分の中に根付く日本人としての長所だと思っています。職人気質といってもいいかもしれません。でもそれを繰り返すうちに周りから意見を求められたり、畑違いのプロジェクトへの参画を要請されることも増えました。けっこうアバウトなスタッフが多い中で私のルーツである日本人の繊細さや審美眼が評価され、このブランドに貢献できているのではないかと自負しています。
GD:ところで2022モデルの開発にはかなりの時間をかけたとお聞きしています。
小林:通常の倍の2年ほどかけました。というのも2019年モデルの「ツアー360XT」が思ったほど成功しなかったからです。2004年から展開している「ツアー360」はあまりにも遺産がありすぎて大きく変えることができず、ユーザーにそっぽを向かれてしまったことが原因と考えています。いっそなくしてしまえという極論も出ていた中で、アディダスのフラッグシップモデルはどうあるべきか、というところから見直しました。
GD:とくにソールのデザインが斬新です。
小林さん:「スパイクモアアウトソール」と呼んでいます。我々が調査したら半分以上のゴルファーはスパイクの寿命が来る前にシューズを替えていることがわかりました。そこでスパイクとソールを一体化させてネジの受けをなくすことで、スパイク特有の突き上げ感がなくなり、フットワークにしなやかに反応するアウトソールができました。
GD:スパイクは交換するものという常識を打ち破ったわけですね。
小林さん:いまはスパイクレスのムーブメントが来ていますが、スパイクレスという切り口だけじゃなくて別のWAOファクター、何だこれはと思わせるようなデザインが必要です。BOAなんかもそうでしたが、これからも常識を変えるようなシューズが出てくると思います。
GD:これからもかっこよくて機能的なシューズを期待しています。