ブリヂストンレディスオープン最終日、トップでスタートした西郷真央は距離が長く難しいアウトコースを1オーバーと耐え、ハーフターン。13番をバーディとしスタート時のスコアに戻したが、ティーショットの落下地点のフェアウェイが狭い14番でピンチが襲い掛かる。西郷のティーショットは右に。目の前にはマウンドがありピンは見えない。ピン方向にカメラ台がかかるため、救済を受けドロップした。
「上から打って振っていったほうがいいね」
キャディの後藤氏と話し合うシーンが中継でも映し出された。
—―14番はひとつのポイントだと思うのですが、あのとき2人で何を話していたんですか?
「ドロップの状況次第では悪いライになるかもしれない。ドロップする位置によってマウンドを越えるだけのショットしか打てないのなら、手前に刻むしかないのでダボを打たないマネジメントに切り替えるか、マウンドを避けて左のバンカーに入れるしかなくなる、という状況でした。幸いにもマウンド越えは避けることができました」(以下後藤氏)
グリーン手前から行く作戦だったが思いのほかランが出てグリーンに乗り、このピンチをパーで乗り切った。
—―やはり攻め方もキャディと話し合って決めるんですか?
「ほとんど西郷プロが決めます。4UTで打ったのですが番手も本人が選びました。僕はよりシンプルに打てるように間を取ったり、タイミングを計ったりするだけです。もちろん、いい結果が出れば最高なのですが、失敗してもその経験が練習になると思っています。成功したら自信になるし、失敗したら、こう判断したから失敗したんだと理解できる。そうすれば、次に同じような場面が来たら失敗しないようになると思っています」
そして、あの劇的なチップインイーグルを生んだ16番。先に打った山下美夢有がドライバーでナイスショット、西郷は3番ウッドを手にした。
—―ドライバーで打つという選択肢はなかったんですか?
「朝の時点でティーイングエリアが前に設定してあるのはわかっていました。西郷選手自身のフィーリングでいこうというのは決めていたので、実際に16番に行ってその場でどう決断するかも任せると伝えていました」
後藤氏は展開的に、もし2打リードして16番を迎えていたら、勝負せずにUTで打って、フェアウェイの平なところに残すという作戦も考えていたという。優勝を争うライバルに「こちらはミスせずにバーディパットは必ず打つよ」というプレッシャーをかける、そういう試合運びも選手の引き出しとしては持っていたほうがいいと思ってのことだ。
—―ラフから打ったセカンドショットでは、どういうことを考えました?
「グリーンは狙ってないです。左の花道がいちばん最高、でもそこを狙うとなると右の林が気になる。いちばん嫌なのが右手前のバンカーで距離的にキャリーで越えるかどうか、というところでした。ラフでダウンヒルだと越えられない可能性が高く、越えたとしても右からの風にやられる、それなら狙ってバンカーに入れたほうがいいと考えていました。でもバンカーでもできるだけグリーンエッジに近い奥のほうに入れてくれというイメージでした。見事に思い通りの所、あごの近くでピンまではエッジから距離がある、いちばんシンプルな打ち方ができる、ピンが狙える確率が高い所にボールは止まりました」
思い描いた通りの位置にボールは転がり、シンプルなバンカーショットが残るように想定していたというから、2手、3手先まで読む力がキャディには必要とされるということか。そしてラインといい、タッチといい完璧なバンカーショットで西郷は勝負を決定づけるイーグルを奪う。
「24ヤード、だいたい女子の選手が好きと思うバンカーショットは12~15ヤードのキャリーが打ちやすい距離です。キャリーして5ヤード転がるか、7転がるかですね。ちょっと飛んで17ヤードキャーリーしてジャストでしたよ」
勝負を決定づけても石橋を叩きながらプレーしたという。18番のセカンドショットも本来なら8番のところを9番アイアンにした。これは2人とも同じ意見だった。
「もし飛びすぎてしまったら……。池にいれるのがいちばんダメなんで9番でいいですか、と聞かれたので、もちろんだよと答えましたね。いま勝負するべきじゃない、3打目は勝負だとしても2打目で勝負はしなないよ、と絶対に池には入らない、人より手前に刻みました」
この判断が最終ホールのバーディにもつながった。そして西郷は2試合連続して予選落ちをしたとは思えない、復活優勝を飾る。
最後にいちばん近くで優勝を見届けた後藤氏に西郷の強さをどこに感じるかを聞いてみると
「西郷選手の素晴らしいところはゴルフIQの高さだと思うんですよね。ゴルフに対する姿勢というか、どうやったらうまくなるのか、間違った頑張りをせずにうまくなる方法というんでしょうか、コツコツとそれさえやっていれば勝手に上手くなるぞ、みたいな、それがわかっているところ。それがゴルフIQだと思います。ゴルフを上手くなるためには必要なことだと思うんですけど。練習だけじゃなくてマネジメントも、自分がいいスコアで回れるマネジメントをもっているところですね」
確かに西郷は勝ったトーナメント5試合、すべて別のキャディで優勝している。
「それは西郷選手自身が考えつくされたゴルフのゲームをしているということです。だから僕らはいかに気持ちよくショットができるか、タイミングしかり、いい環境をあたえられるかにベストを尽くすだけでなんです」
この試合でもっと盤石な優勝で、西郷真央ここにあり! ほかの選手がもう誰も敵いませんっていう優勝を目指していたという後藤氏。それにはちょっと課題が残る試合になってしまったというが、じゅうぶん西郷の存在を知らしめた優勝だった。
写真/大澤進二