日本では練習が難しい、“止まらない”砲台グリーンに苦しんだ
ノースカロライナ州サザンパインズの「パインニードルズ・ロッジ&GC」にて開催された、海外メジャー「全米女子オープン」。4日間のトータルスコアをアンダーパーで終えた選手が13名というメジャーらしい難セッティングのなか、ミンジー・リーが2位と4打差、トータル13アンダーで勝利を手にした。
同大会には畑岡奈紗、笹生優花、古江彩佳、渋野日向子ら総勢15名の日本人選手も参戦。うち最高位を見てみると、小祝さくらが20位タイと健闘した。いっぽう、プロコーチ・井上透がコーチとキャディを兼任した識西諭里は予選落ちと悔しい結果に終わった。
井上は「予選のカットラインは3オーバー、対して諭里の最終スコアは10オーバーでしたが、粘り強くプレーしていました」と試合を振り返る。
「プレーしている段階で、3~4オーバーが予選のカットラインだろうなと肌感覚で感じていて。諭里は残り6ホール残したところで5オーバーと粘っていたのですが、インコースの厳しいホールが残っていたのもあり、カットラインから出てしまいました。結果、最後は無理に攻めざるを得なくなり崩れてしまいましたが、予選通過の目はじゅうぶんにあった内容だったとは感じています」(井上、以下同)
やはり難しかったというのはグリーン周り。砲台グリーンに加え、グリーンのコンパクションも硬くスピードも速かった点。「上手くマネジメントして努力はしたんですけど、パッティングで『この辺からは2パットでいきたいな』という状況や『ココからは寄せワン獲りたいな』という状況から、ハーフに1~2回ボギーが出てしまって、それがボディブローのように効いてきて少しずつ厳しい展開に追い込まれてしまいました」という。
「メジャーのコース設定は選手たちをふるいにかけてきます。ラフでも風でもそうですが、プロであっても自分の感覚の許容範囲を超えると対応が難しくなってしまうんです。そのラインを試されるのがメジャーなんです。今大会は『硬さ・速さによって止まらないグリーンに対して誰が一番適応力が高いか』を試されていましたね。そして諭里のゴルフは適応できるところには達していませんでした」
グリーンへの対応が一歩遅れてしまった原因として「環境要因による経験値の差はどうしてもありますね」と井上。
「そもそも似たような硬さ・速さで打ち上げのグリーンが日本のコースではほぼありませんから、練習すること自体が難しいんです。今大会のようなグリーンで育ったプレーヤーたちは平気でアプローチにユーティリティやパターを持ってきますが、そもそも練習して経験値を積むことができなければ、外から転がし上げるような技術や感性はどうしても磨かれづらいんです」
もちろん、そういった経験値も含め総合力が試されるのがメジャー。「結局ミンジー・リーが勝ったのもショット力、アプローチ、パター……すべてが高水準の実力を持っているからです」と井上は言う。
「上手い選手が勝つフィールドはアンフェアではないし、ありとあらゆる技術が要求されるからこそ総合力が極めて高い選手が優勝した。これは今大会がとてもいいフィールドだったということです。諭里は技術的な問題ももちろんゼロではないと思いますが、それ以上に環境要因によって経験値が不足していたと感じます。でも、それこそ練習環境は海外ツアーに行き、そのフィールドで戦わない限り、なかなか簡単に養えないですから、よい経験になったと思います」
技術やマネジメント、メンタルも「近い水準になっている」
では、海外メジャーで世界のトッププロたちのプレーやマネジメントを間近で見た井上から、日本と海外の選手のレベルの差はズバリどの程度あるのか。この問いに対し「正直、そんなに馬鹿みたいに離れているとは思わないですね」と井上は答えた。
「とくに黄金世代をはじめとする今の若手のプレーヤーたちは、ショットの技術力やマネジメント、メンタル面においても非常に海外選手との距離が近くなっていると思います。ただ、どうしても体のサイズが全然違うので、マネジメントや技術が仮に同じでも若干の飛距離差や弾道の高さの差は出てきてしまうし、その差を埋められるくらい打ち切れるパワーヒッターはまだ少ないのかなと思いますね」
もっと言うなら現時点の日本人選手のレベルでも「自分たちに合ったコースでメジャー大会が開催されれば、勝てるチャンスは全然あります。それくらい、圧倒的なレベル差というものはないと感じています。僕の感覚、イメージでは、ここ5年から10年で日本人のメジャーチャンピオンが5人くらい誕生すると思っています。それくらいの実力を選手たちは潜在的に持っているとは思いますよ」と井上は言う。
「今回のメジャーで15名の日本人選手がそこまでいい結果を残せなかったのは『日本に似たようなコースが非常に少ない=経験値に乏しい』という点に尽きます。だからこそ日本人選手が海外ツアーを目指し、世界の舞台で活躍するための選択として、畑岡選手や渋野選手、古江選手のように米女子ツアーへフル参戦する、といった動きは有効ですよね。どんなに実力があっても、その国、そのコースでしか得られない経験を、スポット参戦のような短時間でクリアするのはまず不可能だと思います。環境要因を変えて、日本では得られない経験値を早い年齢から得ていくんです」
井上によれば「彼女たちのように、海外ツアーへの挑戦を決意する選手は年々増えていくと思います」とのこと。「韓国ツアーでは、パク・セリが米女子ツアーで勝ち、その後ほかの選手たちも後に続いて挑戦し、いろんな選手が活躍しだしました。僕の感覚では、韓国で起こったようなことが日本でも近い将来起こると考えています」と井上は言う。
「そうなったときに大切なのが『海外ツアーに挑戦しやすい環境づくり』。日本ツアーも、韓国ツアーのように外に出やすいスタイルにしていくことが大事だと思います。日本のトップ選手や、それこそ賞金ランク20~30位くらいの中堅クラスの選手たちが海外ツアーに積極的にチャレンジできる制度づくりがあるといいですよね。日本ツアーの新陳代謝を増やすという意味でも意義があると思います。選手たちの海外ツアーへの挑戦が盛んになれば、個々人の日本では得られない経験値もどんどん蓄積していく。「普段のアメリカツアーに日本人選手が10~20人くらい参戦している未来が作り上げられたら、それこそ韓国ツアーと同じ状況が作れると思いますよ」