それは静岡県・グランディ浜名湖ゴルフクラブ12番の池越えのパー3ホールのティーショットでのことだった。左から右の強いアゲンストが吹いていたので、当然風に押し戻されての池ポチャを用心して大きめのクラブを選ぼうとした小澤に対し、清水はこう進言したという。
「『このホールは風の影響は考えずに打って欲しい』と言われたんです。え、でもこれだけアゲているのに、それってどういうことですか? と訊くと『このホール沿いの左側にホテルがあるでしょ。あのホテルが風を遮ることによって、ボールが飛んでいる間に風の影響が減じられるので、アゲンストだからとって距離を多めに打つ必要はないから』と言うんです。でも、手前の池も不安だしと私が言うと、『絶対に入らないから安心して打って』と言われました」(小澤、以下同)
小澤は手前の池とアゲンストの風という状況に、不安感はぬぐい切れなかったものの、そこは清水キャディの言葉を信じて、距離ピッタリの番手で打った。すると、ショットはじゅうぶんにピンに届いているどころか、むしろ少しオーバーするくらいの結果となったのだ。
「グリーン周りが木に囲まれている場合は、風の影響が減じることはあるので、周囲のロケーションを見て風を読むことは大事。もちろんそれは知っています。ただ憲さんはホールから少し離れたホテルの影響まで計算に入れて風の影響を測っていたということに驚かされました。自分独りだったらそこまで目に入らないし、気付いていなかったことです。今後はそういうことも考慮していかないといけないなと思いましたね」
今回の清水キャディのアドバイスのように、遮蔽物となって風の影響が変わってくるということも風向きを知るうえで重要なことである。よくある例としては、グリーン周りは林に囲まれているのでピンフラッグはあまり揺れていないのに、いざ打ってみるとボールは上空で流されてグリーンを外してしまうケースだ。
これなどは、ティーイングエリアやグリーン周りは林に囲まれて風が遮断されているが、その途中は林が途切れているために、そこが風の通り道になっていてボールがその風に流されてしまうというわけだ。今回はその逆で、清水は途中で風が遮断されることを見込んでアゲンストでもクラブを上げず、距離ピッタリのイメージで小澤に打たせたわけだ。
さらに、手前に池があるというシチュエーションも清水は考慮に入れていたのだと小澤は言う。
「私が手前の池も不安だと言うと、憲さんは『絶対に入らないから安心して打って』と言ってくれました。でも内心は不安だったんだと思います、インパクトは強く入り、結果的にややオーバーしました。憲さんは、そういった池を前にしたプレーヤーの無意識の反応なんかも考慮して『絶対に入らない』と言ったのだと思います」
万が一プレーヤーが池に入れてしまったら、風を読んだキャディの責任にもなりかねない場面で「絶対に入らないから安心して打って」と言い切れるのは、風と選手心理を読み切るベテランならではのキャディワークがあったのだ。