みなさんこんにちは。「ザ・ゴルフィングマシーン」研究者およびインストラクターの大庭可南太です。さてこれまでの記事では、「ザ・ゴルフィングマシーン」に書かれているゴルフスウィングの「原理原則」について、様々な方面から(順不同に)紹介をしてきました。しかしおもな内容について言えば「まわして打つのはもうやめよう」、「ゴルフスウィングは二重振り子」、「上達のためには『手の教育』が大事」などで、「下半身」、「ボディ」といった話題にはあまり触れていません。
しいて言えば「ヒップクリア」というものがありましたが、その主旨は「手の通り道をふさがない」というものなので、いわゆる「両足を強く蹴って」、「腰を切りながら」、「下半身から体幹のパワーを爆発させる」みたいな内容とは少し赴きが異なると思います。
こうした「下半身」「ボディ」系を「積極的に使う」内容に触れてこなかった理由は明白で、「ザ・ゴルフィングマシーン」にはそもそもそうしたことが書かれていないからです。
いっぽう「下半身リード」などのワードに代表されるように、下半身やボディを積極的に使ったスウィングでなければ「手打ち」であるというような認識が、いまだに日本ゴルフ界では優勢な論調であるようにも思えます。そこで今回は「ザ・ゴルフィングマシーン」では「下半身」「ボディ」の役割をどのように考えているのかについて紹介するとともに、科学的見地も踏まえて考察していきます。
「下半身」「ボディ」の役割は「バランス」である
いきなり結論ですが、「ザ・ゴルフィングマシーン」では「下半身」や「体幹」(これらをまとめて「ボディ」と呼んでいる)の役割は、スウィングの「バランスを確保すること」であるとしています。ゴルフクラブという、長く、先端におもりのついた棒を振るときに、よろけたり、伸び上がったりしないようにするのが「ボディ」の役割だというのです。
また初代マスターズ覇者のホートン・スミスを育て、伝説的指導者として知られるアーネスト・ジョーンズ(1887〜1965)もその著書の中で、「クラブヘッドをどのように動かすかに集中すべきであり、その際にバランスは自然に保たれる状態でなければならない」としています。たとえば、上り坂を登ろうとすれば自然に前傾姿勢になるとしても、そこに意図をもって「腰をかがめよう」とは思わないはずで、ゴルフスウィングも「クラブヘッド」を操ることに意識があり、「ボディ」の動きは無意識に「バランスをとっている」状態が正しいと言っているわけです。
両者に共通している主張は、「下半身」や「ボディ」が、「スウィングの司令塔」になることはないという点です。動きだしの順番で言えば下半身から動くでしょうし、「下半身」「ボディ」で作られるエネルギー大きいことも事実でしょう。しかし「下半身」「ボディ」を意図的に動かせば、「クラブが理想的に振られる」ということにはならないと言っています。
例えばピッチャーがボールを投げるときの意識として、「今から足を踏み込むぞ」とか、「なるべく高く脚をあげよう」と考えながらボールを投げるのは不自然だということです。「あのキャッチャーミットに投げ込むぞ」と意識したら、自然と脚を上げて踏み込んで投げていたというのが正しいと言っているわけですね。
もちろんこれにはベン・ホーガンさんのように、「ダウンは腰の動きから始まる。手は一切意識をするな」とする反対意見もあります。いわゆる「下半身リード」ということを主張しているように思えます。
このままでは感覚論になってしまうので、ここでもう一つ別の視点を加えて見ましょう。
「随意運動」と「神経反射」
運動とは筋肉の伸縮による動作の複合体と言えますが、運動には大きく二つの種類があります。一つは脳から指令を受けて行う「随意運動」と、もう一つは意図せずに行っている「神経反射」というものです。
たとえばチリ紙をゴミ箱に放り投げるという運動は意図的なものなので、チリ紙をつかみ、腕を後方にやってから前方に振り出すと同時にチリ紙を放つということを、脳の指令にもとおこなっています。これが「随意運動」です。ではこの「随意運動」を行うための、体の各部位の筋肉に指令をおこなう脳が、どのように割り当てられているかはすでに研究されています。
つまり「随意運動」について言えば、脳が割り当てられているのは、両手、表情、眼球、舌などが大部分であり、ボディ部分はあまり多くないことがわかります。よってチリ紙を足の指先でつまんで下肢を振ってゴミ箱に放り込むのは、手でやるよりも相当難しいことになります。
いっぽうで、「神経反射」とは動物の生命維持のために重要な役割を担っています。心臓や内臓は意図的に止めたり動かしたりできませんが、つねに最適な状態を反射的に保つようになっています。また、たとえばつまづいたりしたときに、瞬時に倒れそうな方向に脚を出して転倒を防ぐというのも「神経反射」にあたります。脳を経由する「随意運動」では、最低でも0.25秒程度の反応時間がかかるため、こうした非常事態には対応できないのです。
つまり、「手」は筋力は乏しいものの、複雑で繊細な運動を意図的におこなうことに長けており、「下半身」や「ボディ」は、筋力はあるものの「随意運動」についてはあまり器用とは言えず、むしろ「神経反射」に適していると考えられそうです。
そうだとすると、「教育された手を使ってクラブを振る」意識のもと、「下半身が無意識にバランスを取ってくれる」状態が正しいという「ザ・ゴルフィングマシーン」やアーネスト・ジョーンズの主張は理にかなっているように思えます。
「神経反射」とどのように付き合うか
とはいえ、意図的に動かすことが難しい「下半身」や「ボディ」に筋力の大半が集中していることは事実なので、そこで発生しがちな「神経反射」をどのように抑えるか、あるいは発生するものとして付き合っていくかが重要だと思います。
たとえばジャスティン・トーマスのアドレスとインパクトを比較すると、インパクトに向けて両脚を蹴っているように見えるにも関わらず、頭部はアドレス時点よりインパクトのほうが沈み込んでいることがわかります。
クラブを下に振り下ろす際のバランスを取るために、下半身が「反射」して両脚を伸ばしていても、頭部はしっかり「下に」に圧力をかけつつ、かつハンドファーストでインパクトをすることでちゃんと当たる構造になっているわけです。
いっぽうで、アマチュアの方は前回の記事でも紹介した、「伸び上がり」、「ヘッドアップ」の状態でインパクトを迎える場合が多々あります。これも「クラブを下ろしてくる」ことに「反射的」にバランスを取ろうとすることから起きていると思いますが、それではボールに届かないので、器用にコックを解いてボールとの距離を調整して「当てる」ことになります
つまり、伸び上がりという悪影響をもたらす「反射」を、「うまくコックを解いて当てる」という「随意運動」でカバーしているのです。しかしそんな難しいことをするよりは、まずは下半身の「反射」を抑えてみることを考えてはどうでしょう。具体的にはバンカーや傾斜地のように、腰を落とした構えなどで、下半身が不用意に動かない状態を作り、頭部や軸が上下左右にブレない状態を確保して練習するといったことです。
私個人としては、「ヘッドアップ」などの「下半身」「ボディ」の「神経反射」を制御できていないのに、それらを積極的に「随意運動」で動かしてナイスショットを目指すというのは、ほぼ不可能だと思っています。よってレッスンにおいても、まずは「手の教育」を進め、クラブをスムースに振れるようになることが重要だと考えています。