「耐えるところは耐えて、チャンスを生かしていければ60台を出せるという自信はありました」。逆転優勝を見据えて、目標としていた通算5アンダーには1打届かなかったが、木村はほかの選手が苦しんだ強風に翻弄されることなく、着実にスコアを伸ばしていった。大きかったのは11番パー4のチップインバーディ。2日目のホールアウト直後に中継でプレーを見守った南秀樹コーチから「手前からのランニングアプローチの練習をしっかりやっとけ」と指導を受け、徹底して練習していた通りの一打だった。
木村が南コーチに師事するようになったのは2019年のシーズン中から。前年に初シードを獲得したものの、中盤に棄権を挟んで10試合連続予選落ちを喫するなど、絶不調に陥っていた。当時を振り返り、南コーチは「本人はドローを打ちたかったようですが、クラブが下から入って、すくい打ちがひどい状態でした」。ダウンブローでボールをとらえられるようアプローチから打ち方を見直したことで、シード獲得はならなかったが、QTでは3位と好成績を残し、ツアーの出場権をキープ。このオフから南コーチが拠点とする香川・高松にマンションを借り、本格的に指導を受けるようになった。統合シーズンとなった続く2020-21年は賞金ランク32位でシード復帰。国内メジャー「日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯」(20年)、プレーオフで敗れた「スタンレーレディス」(21年)と2度の2位があり、初優勝が現実的な目標になっていった。
試合後、木村のキャディバッグを覗くと使い込んだ跡が残るアイアンの中でも7番だけがやけに傷だらけだった。「今週バンカーからたくさん打ちましたからね」。そう明かすのはキャディを務めた坂口悠菜さん。今大会期間中、ラウンドの前も後も、練習打席の左端にあるバンカーから徹底して打ち込んだのだという。これもやはり南コーチの指示。先週の「ニチレイレディス」ではコーチ自らキャディを務めており、クラブが下から入るかつての悪癖が再び顔をのぞかせ始めていることに気づいたからだった。飛距離が出るタイプではない木村にとってショットの精度は生命線。7番アイアンについた無数の傷がそれを支えていた。
破格の優勝賞金5400万円の使い道として、優勝インタビューで木村が高級車の購入を挙げたことも話題を呼んでいる。幼いころからの車好き。プロテスト合格直後にインタビューをした際には「賞金女王になって家の前に高級スポーツカーが並んでいたらカッコいいですよね」と夢を語っていた。愛車のマセラティのハンドルを握り、コースを立ち去ろうとしていた木村は「夢が現実に近づいてきたかもしれません」。7番アイアンとは対照的に傷ひとつないピカピカの高級車がモチベーションを支えている。