酷暑のなかでおこなわれた今大会では初日のラウンド中に鈴木麻綾のキャディ、3日目のスタート前にはささきしょうこのキャディが体調不良で交代。理由はまったく異なるが、前週続いてキャディが話題を集めるトーナメントとなった。
そんななか、優勝した青木のキャディを務めたのは大西翔太コーチ。2015年に指導を始めてからほとんどの試合でキャディを兼任しており、今季も開幕からすべての試合でバッグを担ぐ。渋野日向子が「AIG全英女子オープン」を制した際には青木翔コーチ、稲見萌寧が東京五輪で銀メダルを獲得した際には奥嶋誠昭コーチがキャディを務めていたが、ほぼすべての試合でコンビを組むのはツアーでも珍しいケースだ。
キャディといえば、ピンまでの残り距離を伝えるなど、コース攻略をサポートするのが主な役割のひとつ。しかし、大西コーチは「こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど、ヤーデージブックすら持っていません」。かといって、ラウンド中に技術的なアドバイスを送るわけでもない。「1ラウンドは長いのでどうしても弱気になったり、気持ちが緩む場面が出てきます。そういう時に『覚悟を決めよう』、『魂を込めろ』という言葉をよくかけますね」
このコンビにおいては精神面でのサポートがキャディの最大の役割となっている。
青木の大西コーチ評は「熱い人」。近年、メンタルトレーナー、栄養士と次々に資格を取得したのはそれ自体が指導に役立つというだけではない。「変化がなければ、進化はない。僕自身が変わることで、それを見た選手が自分も変われる、変わろうと思ってくれればいいと思って勉強しています」。言葉だけでなく、コーチとして成長する姿を見せることで一時は「シード落ち→引退」も頭をよぎっていた青木のやる気を呼び起こした。
青木は今回の優勝で生涯獲得賞金3億円を突破。この部門の歴代1位で13億円超の不動裕理は幼いころからの憧れの存在だ。
「不動さんへの第一歩というか、これからの積み重ねだと思うので少しでも近づけるように頑張ります」
引退なんてまだまだ先の話。来年2月に30歳とベテランと呼ばれる日が近づいているが、大西コーチの熱い姿を見続けている青木は夢に向かって意気盛んだ。