このアイアンの話、スタートはいまから5年前に遡る。
埼玉県・越谷のフィッティングセンターがオープンするときに発表された三浦技研独自の「9ポジションフィッティング」。ロフト、ライ角に加え、FP値をスイングに合わせることで適正な飛距離が打てるというものだ。将来的には、これに加えて同じヘッド形状で重心距離の長いもの、短いものが作れるとフィッティングの幅がより広がる、他社のフィッティングと明らかな違いが出せると、発表と同時に次のチャレンジがスタートした。
重心距離が短いものについては極端な話、フェースの長さを縮めるだけなので簡単にできる。
では、長いものはどうする? と考えたとき、
「重心距離を伸ばすためにトウ側に重量をもたすのか、ヘッドをトウ側に伸ばすか、いずれにせよ、トウ側に何かをすることによって重心距離というのはわずかにトウ側に伸びていきます。たとえばホーゼル部分を短くしても重心は多少トウ側に寄る。ヘッドの大きさを変えない、大きくせずにやるとしたら……。そこでヘッド全体をトウ側に移動させるということを考えついたのです」(三浦勝弘氏)
極端にヒールエンドをトウ側に動かしたモデルはすぐにできた。重心距離を長くするのが目的のため、さらにトウ側に重量を盛ったモデルを試作してみた。
「トウ側に重量をもたせたモデルは必要以上にフェースが左方向に行こうとする、ボールがつかまりすぎるんですね。左方向に返ってこようとするのを少なくするためにトウ側の重量をカットしてみました」(三浦氏)
重量を合わせながらトウ側を研磨し、重さをそぎ落としていくと、予想よりはるかに打ちやすいアイアンができた。なぜか?
本来アイアンの芯はヒール寄りにある。そのことを理解している上級者やプロは、アイアンでヒール寄りにボールをセットして、そこでとらえる。
でも普通のゴルファーならボールはフェースの真ん中にセットしてフェースの真ん中で打とうとするはずだ。
「重心距離を長くすれば、ヘッドのセンター近くで打てる。芯がヒール寄りではなくて、見てイメージしやすいセンターになる。芯がイメージしやすくて芯で打てるという、マッスルなのにやさしいアイアンができました。スウィートエリアは広くなくていい、芯に当たりやすければクラブはやさしくなるのです」(三浦氏)
しかし、アイデアを盛り込んだプロトタイプを作るには100グラム程度を研磨で落としていかなければならなかった。いくら研磨に慣れているとはいえ、新しい考えが浮かぶたびに毎回100グラムを削るのは相当な作業だ。
そこで工場長である・坪田孝博氏が見るに見かねて、試作に参入し、さまざまな手法を駆使して研磨量の軽減及び重量配分に貢献し、試作品を作るスピードが格段に上がり、次の研究が始まった。
同時にバックフェースのデザインもシンプルなものから、より重量配分の効果を生む形があるのではないか、と現場と議論し、あえて複雑な形を採用した。
「マッスルの進化形というか、マッスルも進化するんだ!ということがやってみてわかった。使う人によって評価はいろいろあると思う、でも誰が打ってもわかるほど違いは出せた」と三浦氏はいう。
職人でありながら、アイアンの研究家でもある三浦勝弘と、その弟子たちが作り上げたマッスルバックの形。匠たちの頭の中は、もう次のモデルを思い描き始めている。