静岡県・グランディ浜名湖ゴルフクラブ4番ホールは、ティーショット次第で2オンも狙える短いパー5だ。小澤のティーショットはフェアウェイのど真ん中をキープし、通常なら2オンを悠々狙える。しかし、この日は強風下のラウンドで、グリーン右サイドにはフェアウェイの途中から続く大きな池が待ち構えているという状況だ。
「セカンドショットのクラブ選択の時に清水さんが、何の迷いもなく『ウッドで行くでしょ』と言ってウッドクラブを渡してくれたんです。私のその時の気持ちとしては、風が強くてここまでは、なかなか普段のゴルフをさせてもらえていないし、もうこれ以上スコアを落とせない。だから、この池越えをウッドで打つのは勇気がいるなぁという感じでした」(小澤、以下同)
そこで小澤が「いや、池が怖いから、ウッドはちょっと……」と言うと、清水さんから返ってきた言葉が「『池、どこ?』だったんです」と小澤。もちろん、百戦錬磨のキャディの清水が池を見落とすわけはない。それは小澤も承知のうえで、こんなやり取りをする。
「私が『池、どこって、目の前にあるじゃないですか』って言ったら、清水さんはとぼけた口調で『ホンマ? へぇ~』って返してきました。それで私は意を決めて『池に入っても知らないですよ』って言って、ウッドを持って2オン狙いでセカンドショットを打ったんです」
小澤が腹を括って打ったセカンドショットはグリーンの横のカラーに届くほぼ2オンという良い結果となった。
注目したいのは、2打目を打つ前のクラブ選択の時にマイナスイメージが頭に中に満ちている小澤に対して、プレーヤーをポジティブシンキングに転換させる清水キャディのインサイドワークだ。
例えば、右サイドはグリーンまでOBが迫っているホールでプロはよく「右サイドのOBを消して打つ」という言い方をする。現実に右サイドのOBはあるのだけれど、そこに意識を向けないようにすることで観念上でそのOBを消失させるある種のマインドコントロールだ。「池が怖いからウッドはちょっと……」と尻込みする小澤に対し、清水キャディは「池、どこ?」と言い、小澤に頭の中から『池を消す』ようにし仕向けたわけである。
「もしあの時に『風も強いし、クラブどうしようか?』なんて言われていたら、多分、私は池に意識を囚われて、攻める気持ちがなくなって手前に刻んでいたと思うんです。でも清水さんから、『池、どこ?』と言われて、自分の中で池を意識せず前向きに打つことができたんです。考え方ひとつでゴルフって変わるんだなって改めて実感したアドバイスでした」(小澤)