セントアンドリュース・オールドコースで開催の全英オープンとくれば、コースに「TheSands of Nakajima」(トミーズバンカー)の名を残すこの人にどうしても話を聞かねばなるまい。1回目はゴルフの聖地で生まれたあるルールについて。中嶋常幸が現地で聞いたエピソードを披露してくれた。
画像: オールドコースに来ると、プロたちも記念撮影をする18番ホールを流れる小川。今回はここにまつわるエピソード

オールドコースに来ると、プロたちも記念撮影をする18番ホールを流れる小川。今回はここにまつわるエピソード

みんゴル取材班(以下、み):R&Aの本部が置かれているセントアンドリュースはいわばゴルフの総本山です。

中嶋:ゴルフは世界共通のルールでプレーされていますが、その元締めがR&AとUSGAです。日本のJGAはR&Aの傘下なのでR&Aがルールを変えるといったら日本も従わなくてはいけません。

み:ラージボールや高反発クラブが規制された時は日本のゴルフ界もかなり混乱しました。

中嶋:そのいっぽうでローカルルールというものもあります。

み:代表的なローカルルールといえば「プレーイング4」ですね。

中嶋:ゴルフルールの主旨からいえば本来ローカルルールなんて認められないはずなんです。でもじつは最初にローカルルールを作っちゃったのがR&Aなんです。

み:矛盾してませんか。

中嶋:オールドコースの18番ホールをスウィルカンバーンという小川が横切っています。昔はあそこがご婦人方の洗濯場で、洗濯物を芝に広げて干していた場所なんです。

み:みなさんが記念撮影する有名な橋のところですね。川で洗濯とは桃太郎みたいですが、日本のゴルフ場では考えられません。

中嶋:セントアンドリュースのゴルフ場は誰でも自由に入れるパブリックな土地なんです。ゴルフをしようが散歩をしようが洗濯しようが自由。女房が洗濯している脇で、旦那たちがゴルフに興じていたわけですが、どうしてもあそこにボールが飛びやすい。

み:プレーヤーからすれば洗濯物が邪魔になる可能性がありますね。

中嶋:ゴルフルールの大原則は「あるがままにプレーする」。それを定めたのがR&Aです。

み:1754年に作られた「セントアンドリュースの13ヶ条」が現在のゴルフルールの期限といわれています。

中嶋:ルールではクラブが傷つくので小石は動かしていいことになっているけれど洗濯物は救済の対象には入っていません。

み:洗ったばかりの洗濯物をクラブで引っかけたりしたら……。

中嶋:ご婦人方から大顰蹙を買いますよ。そこでR&Aは仕方なく洗濯物の近くに行ったボールを1クラブ内にドロップしていいと認めざるを得なかった。ところが、R&Aは例の13ヶ条を世界中に向けて「これからのルールはこれで行く」とばかりに宣言したばかりだったため、仕方なく洗濯物近くのボールを動かす行為はオールドコースだけで通用するルールとしたわけです。それ以降、ほかのコースでも独自のローカルルールを作っていいことになりました。

み:洗濯物と協会の面子の両方を守るために。威厳の高いR&Aとセントアンドリュースにそんな牧歌的なエピソードがあったとは。今年の全英オープンのテレビ観戦はコースを見る目が少し変わりそうです。

画像: 18番ホールで生まれた逸話を教えてくれた中嶋常幸。1978年、オールドコースの17番ホールのバンカーで4打を要し、優勝戦線から脱落したことで、以来このバンカーは「トミーズ バンカー」と呼ばれるようになった

18番ホールで生まれた逸話を教えてくれた中嶋常幸。1978年、オールドコースの17番ホールのバンカーで4打を要し、優勝戦線から脱落したことで、以来このバンカーは「トミーズ バンカー」と呼ばれるようになった

画像: my-golfdigest.jp
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