18番のフェアウェイをグリーンに向かって歩くタイガーを大ギャラリーがスタンディングオベーションで迎える。巨大なスタンドだけでなく周辺のあらゆる建物のバルコニーにも人が溢れ誰もが盛大な拍手を贈った。
見慣れた光景? いや、いつもと違うことがあった。タイガーが最終日に着る勝負服の赤ではなく真っ白なウェアだったこと。そして25年のキャリアで一度もコース上で泣かなかった男の瞳に涙が光ったこと。
これがおそらくセントアンドリュース、オールドコースで戦う最後になる。万感胸に迫るタイガーは泣き笑いで観衆に手を振る。「感情的になってしまった」。なんと美しい光景だろう。
「オールドコースでジ・オープンをプレーするのはいつだって特別なこと」とタイガーはいう。まして150回の記念大会なら尚更だ。次に全英オープンがセントアンドリュースに戻ってくるのは27年(まだ非公式)。「幸運にも自分はここで2度優勝することができた。将来全英オープンでプレーすることはあるかもしれません。でもここに戻って来られるかはわからない」
18番でティーショットを打ったあと同じ組でプレーしたマシュー・フィッツパトリックとマックス・ホマは顔を見合わせ頷きあった。暗黙の了解。タイガーのずっと後ろを歩きレジェンドのワンマンステージを見守った。
隣の1番ではスタート直後だったローリー・マキロイがキャップを軽く宙に浮かせタイガーに敬意を表した。親友ジャスティン・トーマスも視線を投げ同じ動作を行った。
タイガーがセントアンドリュースの全英デビューを飾った95年、アーノルド・パーマーがオールドコースに別れを告げた。05年タイガーがここで2度目の優勝を飾ったときにジャック・ニクラスが全英を引退。2人のレジェンドはそのとき18番の小川にかかるスウィルカン橋で立ち止まりギャラリーの声援に手を振って応えた。しかしタイガーはそうしなかった。
初日の1番で放った完璧なティショットがフェアウェイ真ん中をとらえた。行ってみるとディボット跡に捕まっていた。もしディボットでなければ今週全く違うストーリーが生まれたのかもしれない。グリーン手前の池につかまり1.2メートルを外してダブルボギー発進。ゴルフの神様は残酷だ。
右脚の切断さえ考えなければならなかった大事故を思えばタイガーのショットは劇的に素晴らしい。ラウンド後、全身を氷漬けにしてアイシングを行い、辛いリハビリに取り組む日々。ビハインド・ザ・シーンの血の滲むような努力を我々は知らない。
今後の予定は?
「何もありません。まったくのゼロ。もしかしたら来年何かに出るかもしれませんが、今年はとにかくこの大会に出たかった。結果として3試合(マスターズ、全米プロ、全英)しかプレーできませんでしたが、こんな自分を誇りに思います」